From Editors

ワインを飲んだり、地球のことを考えたり。

2024年4月8日

 今回の特集、『ぼくと服と東京の暮らし。』は、長谷川昭雄さんと一緒に作りました。最近読み始めた方はご存知ないかもしれないですが、2012年のリニューアルから、2018年10月まで、POPEYEのファッションディレクターを務めていたスタイリスト。今につながるシティボーイのイメージを、編集部と一緒に作り上げた長谷川さんが、じゃあ、2024年のシティボーイってなんだろう? と考えて、形にしたのが、今回の特集です。

 その全貌は、ぜひ誌面で確かめていただきたいのですが、この号をパラパラとめくると、ワイン(の、なかでもナチュラルワイン)がたくさん写っていることに気がつきます。服と東京の特集で、なんでワイン? と思うかもしれません。

 ナチュラルワインは、(すごくざっくりと言えば)ブドウの栽培においても、ワインの醸造においても、なるべく不要な介入を避ける、つまり自然に沿った造り方をしましょう。という考え方で造られたワインのことです(諸説あり)。今でこそ東京でもたくさんのお店で見かけますが、もともとは1960年代に、除草剤や化学肥料、酸化防止剤を使った近代的なブドウ栽培、ワイン生産が広まっていくなかで、そのことに危機感を覚えたジュール・ショベという学者によって提唱されたのが現在のブームのきっかけと言われています。

 こういった背景を、音楽史において、商業的ロックに対するカウンターカルチャーとして登場したパンクロックになぞらえて語る人もいます。実際、LCDサウンドシステムのフロントマン、ジェームズ・マーフィーをはじめ、音楽家の中にはナチュラルワインの愛好家が数多くいたり、逆に、造り手にも音楽好きな人は多く、レコードのジャケットをサンプリングしたエチケットもたくさんあったりします。

 一方で、そんなナチュラルワインを、店頭で販売しているのが、アウトドア企業の〈パタゴニア〉です。洋服においてオーガニックコットンやリサイクル素材を使うのと同じ考え方で、「パタゴニア プロビジョンズ」という、地球環境に配慮した食品のコレクションを展開しています。「新しいジャケットは5年か10年に一度しか買わない人も、一日三度の食事をする。我々が本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べ物だ」というのは、創業者イヴォン・シュイナードの言葉です。

 何が言いたかったのかというと、本誌の長谷川さんの言葉を借りれば、「洋服、お酒は、ライフスタイルとしてつながっていて、それが環境問題にもつながっている」こと。そして、「そうしたものを知り、楽しむのが2024年の東京」ひいてはシティボーイなんじゃないか、ということ。この一冊は、そんなことを考えたり、話したりしながら作りました(そして、そんな長谷川さんとポパイとの会話が、そのまま原稿になっていたりもします)。

 と、なんだか堅い話になってしまいましたが、まずはナチュラルワインを飲みながら、本誌をパラパラとめくってもらえたらうれしいです。「で、どこで飲めるの?」という方のために、「TOKYO NATURAL HANDBOOK」という企画も作りました。今の時期、それこそ表紙みたいに、公園でアペロなんかも最高ですよ。それでは、Santé!

エチケットには、音楽ネタのほか、映画ネタのもの。

ナチュラルワインに関するZINEやインディペンデントマガジンも世界中に。左は日本橋兜町の『Huma Nature』の店主・高橋さんが作ったもの。お店で買えます。

取材でお邪魔した『ソワフ』さんにて。ナチュラルワインで作ったヴェルモットなんてものも。

(本誌担当編集)柳澤耕平