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福祉の“いま”。保育士と介護士編。

2024年3月4日

photo: Naoto Date
text: Neo Iida

「福祉の“いま”」から続く、世田谷区内の福祉現場探訪。お次は特別養護老人ホームと、保育園で働く人の様子に密着。子どもだったり、高齢者だったり年齢は全く違うけれど、向き合う姿勢には相通ずるものがありそうだ。

01
子ども一人ひとりと関係を築く。(保育士/落合笑子)

保育の定番、絵本の読み聞かせ。みんな昼寝から起きたばかりなので、興味を惹かれつつもまだちょっと眠たそう。

乳児の思いを汲み取り、応えていく。

 園舎のすぐ背後を小田急線が走る、春明保育園。思いのほか走行音は気にならず、むしろ園児たちの笑い声のほうが賑やかだ。0〜5歳児までの子どもを預かるこの園では、年齢によってクラスが分かれている。今年で3年目の落合笑子さんの担当は0歳児の乳児たち。昼寝から目を覚ました子をあやしながら、他の先生と連携して手際よくおやつの準備をしていく。

「最初は全てが未体験でした。ミルクのあげ方や抱っこの仕方は学校で習ってきたんですけど、実際に乳児さんを目の前にすると難しくて。そのうち『長時間やると、このほうが安心できるのかな』『おなかをトントンすると寝つきが良さそう』とコツがわかってきて。やりながら覚えていきました」

お昼ごはんは一人ひとりと向き合うカウンタースタイル。子供たちがスプーンやフォークを使って食べるのを、真正面からきっちりケア。

 落合さんが保育士を志したのは、なんと保育園児の頃だというから驚きだ。

「お迎えが遅くて不安だったとき、保育士さんが一緒にいてくれて。それが嬉しくて安心し、私もなりたいなと思ったんです」

おもちゃで遊びたい子もいれば、本を読んでほしい子、まだ眠たい子など様々。長い時間をかけて一人ひとりの性格を掴んでいく。

「夢は保育士さん!」と憧れを抱く子どもは多いけれど、やがて別の夢に変わる。でも落合さんの意志は固かった。保育科のある高校を選び、大学で保育士の資格を取得。地元・世田谷の保育園で働きたいと思っていたら、春明保育園を発見。屋上にプランターによる菜園があり、玄関横にはビオトープ。大学時代に畑で野菜を育てていた経験もある自分にはぴったりだと思った。

「1年目は希望した0歳児を担当できたんですが、クラス全体を見るのが大変でした。子どもたちは言葉が喋れないから、オムツ替えのイヤイヤの理由がわからない。そんなときベテランの先生に聞いたら『まだ遊びたいのに、おもちゃが見えないところに移動するのが嫌なんじゃない? じゃあ、おもちゃも一緒に持っていったらどうかな』って。アドバイスをもらったり、先生たちの行動を真似しながら日々勉強しました」

両親の次に抱っこしてくれる保育士さん。キュッと服を掴む小さな手は、まさに信頼の証。最初は緊張したという落合さんの抱き姿も貫禄十分だ。

 0歳では、泣いたり笑ったりすることでしか気持ちを伝えられない。だからこそ察して汲み取る力が必要になってくる。今ではプライベートでも、道端で赤ちゃんが泣いていたら、その理由がなんとなくわかるようになったという。

「子どもたちの性格は一人ひとり違います。ある子に『こうしようね』と話したことが別の子には通じない。でも違うからこそ、伝わったときはものすごく嬉しいんです。保育には、時間をかけて人間関係を築く楽しさがあると思います」

プロフィール

落合笑子

おちあい・えみこ|1998年、東京都生まれ。2021年に大学を卒業し、新卒で春明保育園での勤務をスタート。製作活動が好きで、モットーは「子どもたちと一緒に楽しむ」。好きなバンドはフジファブリック。最近はボクシングも始めた。

施設情報

春明保育園

小田急線豪徳寺駅至近に位置する保育園。0歳児から5歳児までの子どもたちを預かり、園児一人ひとりの成長を見守りながらのびやかな保育を行っている。1955年開園、1995年に新しい園舎に建て替え、2011年に大規模改修工事を行って以来使われている堅牢な園舎は広々と過ごしやすい。井戸水や雨水タンクを利用した玄関脇のビオトープでは、夏には睡蓮が咲き、秋にはアケビが実り、金魚やメダカが泳ぐ。時にはヤゴがトンボに生まれ変わる姿を園児に見せてくれる。


02
高齢者の日常を支える。(介護士/松本翼)

利用者さんが気になる雑誌を読んであげる松本さん。24時間過ごすホームには、日々の暮らしが息づいている。

ケアを続けながら、日々関わり続ける。

 どすん、どすん。深沢共愛ホームズの庭、立派な土俵前で四股を踏むのは、なんと職員の松本翼さんだ。「普段はここで稽古をしているんですよ」とのことで、介護の傍ら社会人相撲の舞台でも活躍しているらしい。異業種の組み合わせは珍しくないけれど、介護と相撲がひとつになるとは!

「兄の影響で相撲を始め、高校では相撲部に。就活で第一志望に落ちたとき、顧問の先生が『福祉が合ってるんじゃないか?』と深沢共愛ホームズを薦めてくれました。社会人相撲に力を入れていて相撲も続けられる。見学で即決しました」

「せっかくだからやってみましょうか」と裸足で四股! 片足を軸にここまで足をあげる体幹の凄さよ。この筋力があれば力仕事もどんと来いだね。

 昔から祖父母のみならず、おじいちゃんおばあちゃんに好かれやすく、いつか高齢者の方々の力になれたらと思っていた松本さん。特段不安はなかったが、早くも現実に直面した。

「1年目で認知症の女性に『誰だ!』と怒鳴られて、思わず泣いちゃったんです。“おばあちゃん=優しい人”のイメージがあっただけにショックで。でも周りから『そんな人じゃないよ』と聞いて、改めて関わったらいい人だったんですよ。認知症といっても“道でよくすれ違う人”程度には新しく出会う人を覚えられる。僕に慣れていなかっただけなんです」

 利用者たちとふれあうにつれ、気づかされたこともあった。

「中高生だった頃に祖父母が認知症になったんですが、デイサービスの人が来ているのに即席トイレの掃除だけは僕たちに任せて譲らなかったんです。なんで僕たちが? とイライラした記憶があるんですが、今思えば恥ずかしかったんだろうなって。きっと身内に任せたほうが気が楽だったんです。そうやって行動の裏側を読み取れるようになってきました」

利用者が暮らすユニットには、キッチンも完備。さながら自宅のようなシェアハウスのような優しい時間が流れている。

 仕事にも慣れ、夜勤では一人で24人を見るという。

「1時間に一回、呼吸をしているか、ちゃんと寝られているか見回っています。いっぺんにトイレに起きると大変ですね。立てる方をご案内し、リスクが高い方には付き添います」

利用者さんの入浴はもちろん、お風呂掃除も好きだという。お湯に浸かってリラックスできる束の間の時間だから、しっかりきっちり清潔に。

 好きな時間は入浴タイム。体を綺麗にすると喜んでもらえるし、マンツーマンで深い話ができる貴重な時間だからだ。

「ご近所出身の方が多いので、僕の地元の宮前平も『昔は森だったよ』と(笑)。あと僕は競馬が趣味なので、オグリキャップの話で盛り上がったり。相撲も軍配が上がる前に決まり手を言えるので、一緒に中継を見ると楽しいみたいです。週に3日は稽古で鍛えているので、介助で困ったこともありません。今までやってきたことが役立っているなと感じますね」

プロフィール

松本翼

まつもと・つばさ|2001年、神奈川県生まれ。兄の影響で中学から相撲を始める。2020年、介護士として深沢共愛ホームズに就職。施設内には相撲部員が数名おり、法人名「老後を幸せにする会」の名で大会に出場する。趣味は競馬。

施設情報

特別養護老人ホーム深沢共愛ホームズ

在宅での生活が困難な要介護3以上の利用者を対象とした介護福祉施設。閑静な深沢の住宅街にあり、一人ひとりが快適に過ごせるくつろぎの空間を提供する。運営を行う社会福祉法人「老後を幸せにする会」には相撲部があり、社会人相撲の世界でも活躍。庭には大きな土俵が備え付けられている。