カルチャー

ラランド・ニシダが読みたい新刊。

映画の新作や、音楽の新譜だけじゃなくて、文学の新刊もチェックしなくていいのか?

2023年10月28日

本をめぐる冒険。


photo: Shin Hamada
text: Maruro Yamashita
2023年11月 919号初出

ラランド・ニシダさん
ニシダ/芸人、小説家
1994年、山口県生まれ。お笑いコンビ・ラランドのツッコミ担当。読書家芸人として知られ、ネタは書かないが小説は書くという初めてのパターンで小説家としてもデビュー。初の作品集『不器用で』はロケ地の『紀伊國屋書店 新宿本店』でもとても売れていた!

新しい小説を読み、楽しむことから
読書の深遠な世界が広がっていく!?

 映画や音楽の場合、新作、新譜を自然とチェックしている人ってたくさんいる気がする。けど、ふと考えると、いわゆる小説、純文学というジャンルにおいては、新刊をチェックすることの楽しさっていうものがあまり広まっていない気がする。確かに、読書という聞こえだけでもネガティブな印象を抱く人がいるかもしれない。でも、最近の純文学はひと昔前とは異なり、宇佐見りんの『推し、燃ゆ』や高瀬隼子の『おいしいごはんが食べられますように』など、芥川賞受賞作といえど、難解なだけではなく、シンプルに面白いものも多い。このままではもったいない! 年間100冊読書をしてきたという読書家芸人であり、自らも小説を書いているラランドのニシダさんと『紀伊國屋書店 新宿本店』の店内を巡りながら、最近読んだ新刊の中から良かった5冊を見つけて、語ってもらった。

Select 1 ハンチバック 市川沙央

ハンチバック 市川沙央
リリースされたとき、ちょうどロケか何かで本屋がないようなとこにいたので、珍しく電子書籍で買いました。それくらいすぐに読みたくて。ちょっとすご過ぎましたね。出てくるワードが全部“今”。普遍的な話なんだけど、こんなに今の時代のやつを出して大丈夫なのか? って思うくらい。読んでみて、芥川賞を獲るのはこれだなって確信しました。(2023年/文藝春秋)

「本を読み慣れていない人にとっては、昔の作品て本当に読むのが大変だと思います。(三島由紀夫の)『金閣寺』とかあそこら辺はやっぱり難し過ぎるじゃないですか。そういうのが教科書に載ったりしていると、それをその時代ならではのものではなく、普遍的な文学だと捉えてしまうきらいがすごくあると思うんです。だから、文学に対して苦手意識を持っている人が、今本屋で売ってる、同時代の人が書いた小説を読んだら、きっと驚くだろうなっていう気はしますよね。だから、そういう意味で新刊が一番とっつきやすいはず。もちろん、教科書に載ってるやつも面白いけど、文学の標本ていう感じがあって。いきなり標本を見せられたら難しいけど、実際に生きてるものを見たら違うと思うんですよね」

Select 2 笑って人類! 太田 光

笑って人類! 太田 光
太田さんの小説、好きなんですよ。今年出たこれもめちゃくちゃ大好きでした。太田さんの小説は観念的な話が多かったんですが、これはエンタメに寄ったすごく具体的な話。太田さんくらいのキャリアがあって、あの感じであの年齢で、今でも人間賛歌というか、人間を肯定する話を書き続けてるのって格好いいですよね。(2023年/幻冬舎)

 なるほど。さすが毎月書店に行き、10冊くらいをまとめ買いして積読も維持しながら、日々読書に勤しむニシダさん。古典と現代作品のどちらが優れているとかそういう話ではなく、自分たちが暮らしている、今の時代から生まれた作品が必然的に持っているムードを入り口にもっと読書を楽しめるようになる。それも新刊を読むことの良さの一つなのかもしれない。

Select 3 ##NAME## 児玉雨子

##NAME## 児玉雨子
これもこないだの芥川賞の候補作で、好きでしたね、元ジュニアアイドルのデジタルタトゥーみたいなことが扱われた作品で。文学ってやっぱり人の悩みみたいなところから出発するというか、そこに重きを置いているものが多いと思うんです。そういう意味で時代性みたいなものがすごく表れてきますよね。(2023年/河出書房新社)

「小説を読んでいて、わからない言葉が出てきたら電子辞書で調べて線を引くんですけど、昔の作品だとめちゃくちゃわからない言葉が出てくるから線だらけになるんです。全集とかで読んでると、そもそもどう調べたらよいのかわからない漢字も出てくるし。これで〝からだ〟って読むんだ……みたいな。僕は基本的に芥川賞の候補になった作品は全部読むんですが、読みやすい作品が本当に増えたと思います。でも、それは小説っていうものが時代を映すものだからかもしれませんね」

Select 4 ミーツ・ザ・ワールド 金原ひとみ

ミーツ・ザ・ワールド 金原ひとみ
ストーリーテリングがすごくうまくて。これも200ページぐらいの話なんですけど、この文字数でこんなに進むんだってくらい話が展開する。疾走感はあるけど立ち止まって読みたくなる文章なんですよね。金原さんは人間をとてもよく観察しているんだと思います。小説のシーンが頭の中で再現しやすいし、伝わってくる。(2022年/集英社)

Select 5 オールアラウンドユー  木下龍也

オールアラウンドユー  木下龍也
詩集なんですけど、短い文字数で人を動かせる文章を書けるのってすごいと思います。「母さんの入院中に父さんはチキンラーメンばかり煮ていた」これ滅茶苦茶好き。なんなんだろう。一回読んだだけじゃわからなくても、あと二歩頑張ったらわかるかもしれないっていう、人に解釈を委ねてくれてる感じが良い。(2022年/ナナロク社)

インフォメーション

紀伊國屋書店 新宿本店

紀伊國屋書店 新宿本店

2023年1月に数年かけて行われていたリニューアル工事が完了。文学のフロアは2階。ニシダさん曰く「ちょっと怖くなるくらい滅茶苦茶いい本屋」。

◯東京都新宿区新宿3-17-7 ☎03·3354·0131 10:30〜21:00 無休