トリップ

【#2】ON THE ROADERS 〜Arizona〜

執筆: 〈Bong Sadhu〉Taikou Kaneda

2023年10月24日

photo: Shoki Ogawa
text: Taikou Kaneda
edit: Eri Machida

Arizona

10月発売の本誌でも取り上げて頂いたように、僕たちはLA ART BOOK FAIRへ出展するため夏の間、太平洋の反対側の地に滞在していた。そして、そのフェアが終了した後、1週間ほどロードトリップに出かけた。総距離3500kmの旅。同行してくれた、僕以外の3人が撮り納めた写真を添え、このスペクタクルな旅の記録を、計4回に分けてまとめてみた。第1回目はこちら!

2. Arizona

Arizona
Arizona
Arizona
Arizona
Arizona

Joshua Treeへの訪問を終えた僕たちは、そのまま東の方角に車を走らせた。国立公園内を抜けてからは前後左右、視界を遮るものは何もない直線の道が永遠と続き、ただその先の一点を見つめながらハンドルを握る。こういう景色を見て「荒野」という言葉を思いついた人はホントにセンスがいいなと思いながら、この荒れ果てた地を見渡してみた。地平線の奥には降りしきる雨が束のような形で目視でき、近くではつむじ風も発生している。どうも不穏な雰囲気が周囲に漂う。文明の気配もない境地へ迷い込んでしまったのか、大地の洗礼を受けた気分だ。雲行きも怪しかったので逃げるようにアクセルを踏みこみ、ここを過ぎ去る。

Arizona
Arizona
Arizona

僕らの目的地であるセドナはJoshua Treeからだと大体6時間くらい。これ程の長い旅路では、道を進むたびに見たことない風景が車の横を通り過ぎる。僕は写真を撮ることも忘れ、童心にかえったように窓から流れる景色をただ眺めていた。徐々に日も落ち始め、滲んだ水彩画のような夕日を横目に車は進む。その後、暗闇も深まっていき、車のヘッドライトだけが頼りの中、徐々に山道に入っていった。「クマ出没注意」の標識を気にも留めず、百野のデスドライブで目的地の宿へ直行する。しばらくすると街灯の明かりが見えはじめ、街っぽい雰囲気になってきた。僕らが宿に着いたのは22時くらい。夜も遅く周りのお店も閉まっていたようなので、宿にあったプールとジャグジーでカラダをリフレッシュさせ、その日は眠りについた。

セドナ
セドナ
セドナ

翌朝、澄んだ青空。夜通ってきた時は暗くて分からなかったが、この街の周囲には赤岩の山々が連なっており、その褐色の岩たちは肌で体感できるほどのエネルギーを発していた。先人たちが長い間守り続け、身を置いたこの地。目には見えないパワーを秘め、スピリチュアルの聖地として親しまれているのもよく分かる。またアリゾナはネイティブ・アメリカンのReservation(居留地)が点在しているため、セドナの街にもジュエリーショップやラグを販売する仲介業者のようなお店が数多くあった。まあ、これらは街の観光地価格だったので、さすがに手が出せなかったが、車で森の中を進んでいくと、空き地でフリーマーケットのような催しものが開かれていた。これらはダイレクトの販売所であるため、作り手や現地のネイティブ・アメリカンの方から直接購入することができる。貴重な交流を通し、心引かれた民藝品をゲットすることができた僕たちは、次の目的地を目指しこの街を後にした。

セドナ
セドナ

一度訪れたみたかったグランドキャニオンを目指して2時間半ほど山道を進む。ふと気づいたが、昨日まで通ってきたカリフォルニアの乾きまくった土地と打って変わり、背の高い緑の木々に囲まれていた。この滞在中、ほとんど森を見てこなかったからか、僕は深緑が発するマイナスイオンを全身で受け止めた。雨もよく降るようで本当に動植物の生育にとって豊かな土地なんだろう。気温もちょうどいい具合に涼しく、たまに窓を開け風を浴びてみた。山道を進んでいく途中、心地よくなってしまい後部座席で昼寝をしていると、みんなの慌てふためく、興奮しきった声で目が覚めてしまった。

グランドキャニオン
グランドキャニオン
グランドキャニオン
グランドキャニオン

窓の外に目をやると空想世界のような、とてつもないスケールのグランドキャニオンの景色が視界に飛び込んできた。ゲームで見るような奥行きと解像度。現実のものとは思えず、脳がなかなか処理できない。空気が澄みわたっているからか、渓谷を見下ろすと、はるか低い土地にあるはずの集落や家たちも、点として認識できる。しかし全体的に岩肌や木々も目で確認することはできるのだが、それはあまりにも遠すぎて、薄いフィルターのかかった画面の中を覗き込んでいる感覚だった。僕たちは、大地が数千万年もの年月をかけ創り上げた、人智を超えた創造物を目の当たりにしてしまった。そして、恐れおののく自分をよそに太陽が渓谷の陰に落ちていった。同じタイミングで雨も降り始め、空に虹がかかる。一生忘れることのない瞬間の一つになった。

グランドキャニオン
Bong Sadhu
虹
Arizona

周囲の自然と流れる時間に身を任せていると、すっかり辺りも暗くなっていた。食事を済ませて、次の行き先もはっきりとしないままこのナショナルパークを去った。「また来ようね」なんていう会話をしながら来た道を下っていく。そして、ここがデスバレーを目指す、耐久オールナイト・ロングクルーズのスタート地点となった。

プロフィール

金田大巧

かねだ・たいこう|2001年、湘南生まれ。ペインター、アーティスト。個人での展示や制作活動の傍ら、友人の百野幹人とパブリッシャー〈Bong Sadhu〉を運営、国内外のアートブックフェアにも参加。根っからのアーセナルサポーター。

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