カルチャー

まだまだ踊れる!東京の盆踊り。

錦糸町河内音頭で踊ってきました。

2023年9月29日

photo: Naoto Date
text: Neo Iida

 夏といえば、盆踊り。櫓を立て、音頭に合わせて輪になって踊るのが一般的なスタイルだけど、そもそも盆踊りとはご先祖さまをお迎えする「お盆」の行事。最近ではヒットソングを流すお祭りも増えて楽しいけれど、果たして太鼓のリズムにのせてダンシング・ヒーローを踊る子孫をご先祖さまはどう思っているんだろう。ちょっと不安になる。

今年9月6日、7日に開催された「第41回すみだ錦糸町河内音頭大盆踊り」。4年ぶりの本格開催に、会場には多くの踊り子が舞った。

盆踊りについて考える

 盆踊りが現在の形になるまでには長い歴史があったわけで、原点は鎌倉時代に空也上人が鉦や太鼓を鳴らして念仏を広めた「踊り念仏」。それが室町時代に先祖供養の仏教行事「盂蘭盆会」(うらぼんえ)と結びつき、盆踊りの形になったんだそうだ。しかし江戸時代に「風紀を乱す」と多くの盆踊りが規制され、明治に入ると神仏分離令の影響で禁止令も出る始末。今や東京に残る伝統的な盆踊りは、江戸初期に大阪・佃の漁師が移住して伝えたとされる佃島の念仏踊りだけになってしまった。近年お祭りで流れる音頭の多くは、福岡の炭鉱労働者たちの民謡を音頭化した炭坑節や、関東大震災後の不景気を吹き飛ばすために丸の内周辺の飲食店が企画した東京音頭(丸の内音頭)など、昭和以降に作られたものが多い。

一風変わった下町の盆踊り、錦糸町河内音頭

 時代に応じて盆踊りは変化する。東京の変わり種といえば、墨田区の錦糸町で毎年行われている「すみだ錦糸町河内音頭大盆踊り」(以下、錦糸町河内音頭)だ。大阪の河内地方で生まれた河内音頭は、音頭取りの「エ〜、さ〜ては〜ァ、一座〜ァの皆さまへ〜ェ〜ェェェ」という力強い節回しが特徴。リズムもいわゆる「ヨヨイノヨイ」ではなく、和太鼓や三味線の他にエレキギターが加わって、ビートが飛び跳ねる。ラテンやレゲエを彷彿とさせるワイルドさだ。そんな祭りが東京・下町で始まったのにはこんな理由がある。

 1978年、大阪で河内音頭を体験したノンフィクション作家の朝倉喬司さんは、『ニュー・ミュージック・マガジン』(現『ミュージック・マガジン』)にその興奮を記した。即興性の高いジャズのような音頭を高く評価し、本場の熱気を東京に持ち込もうと画策。評論家の平岡正明さんなどの同志をつのり、知り合いを伝って錦糸町商店街の青年部の協力を得た。こうして南口にあったパチンコ屋『銀星』の2階に空きスペースを確保。河内から音頭取りを呼び寄せ、櫓のような舞台を組み、記念すべき第一回が開かれた。その後、丸井裏にあった都有地やダービー通りでも開催。1997年からは首都高速7号小松川線の下にある竪川親水公園に場所を移した。高さの関係で櫓は組めないけれど、雨天でも決行できる心強い立地だ。

 提灯がずらりと架かるステージでは、バンドセットの前で音頭取りが生歌を披露する。踊り場には、誰でも参加して良し。本場河内の「マメカチ」が錦糸町で発展した「錦糸町マンボ」や、ゆったりとした「流し踊り」「手踊り」など、踊りのパターンはいくつか。最初は慣れなくても、周りの踊り子の動きに合わせていれば徐々に踊れるようになる。輪と一体になったときの高揚感は格別だ。

 河内音頭は語り芸とも言われ、演目はあっても明確な歌詞はない。例えば町田康さんの小説『告白』のモチーフになり、実際の事件を題材にした『河内十人斬り』なら、歌い手によって言葉選びや節回しが異なる。その生っぽさも魅力だ。音頭取りが代わる代わるドスの効いた声で歌い上げると、会場いっぱいに輪が広がり、踊り場はどんどん活気づく。大阪から東京へと意図的に持ち込まれた河内音頭は、すっかり地元の盆踊りになった。「とにかくパーティを続けよう」じゃないけど、祭りは続けることに意味があるんだ。ふと見れば、ステージの上から締めの口上が。「ちょうど時間となりました〜ァ、それではァ、皆〜さん、さよォォな〜ら〜」。

 来年もここで会えることを願って、めいっぱい拍手を送った。

墨田区本所一帯は明暦の大火後の町割り、関東大震災後の区画整理などを経て、今の碁盤の目状に。会場から押上の東京スカイツリーが綺麗に見通せる。

9月も10月も踊ろう!

 現代の盆踊りは、必ずしも8月のお盆真っ只中に行われるとは限らない。規模の大きな祭りほど、スケジュールや会場手配の問題から8月中の開催が難しいこともあるからだ。それに、もともと日本では旧暦の7月13日から7月15日(8月中旬~9月初旬)をお盆としていた。明治政府が新暦を導入して7月盆を推し進めたことにより、東京では7月にお盆を行うところも多い。地方では古い慣習をなかなか切り替えられず、旧暦に基づいた8月15日前後をお盆とする形で定着した。旧暦をもとに考えれば、9月を過ぎて盆踊りを行うのはおかしなことではないのだ。

 そんなわけで、9月以降に行われる東京の盆踊りをご紹介。過ごしやすくなった今だからこそ踊りやすいはず。気負わずに飛び入り参加してみよう。

まだまだ踊れる!盆踊りリスト

9/30(土)
中村橋阿波踊り
阿波踊りは阿波国(現・徳島県)で生まれた盆踊り。練馬区中村橋の商店街通りと駅前広場に、10連約550名の踊り子が登場する。

9/30(土)
郡上おどりin永福町北口商店街
杉並区永福町で行われる、岐阜県郡上市八幡町で受け継がれる伝統の盆踊りを体験できる祭り。4年ぶり開催。

9/29(金)〜9/30(土)
佃一丁目町会納涼盆踊り大会
佃島の念仏踊りとは異なる、街の納涼盆踊り大会。東京音頭、きよしのズンドコ節、ダンシング・ヒーローなどが踊れる。

9/29(金)〜10/1(日)
青山熊野神社例大祭 奉納踊り
港区青葉公園で行われる、港区の「東京みなと音頭」をはじめ、民謡系の音頭がたくさん流れる盆踊り。

10/7(土)〜10/9(月・祝)
みなと区民まつり
郡上踊りも披露される盆踊り。江戸時代、美濃郡上藩の初代藩主・青山道幸の下屋敷が港区の南青山に置かれた繋がりから、近年交流を深めているんだそう。

10/7(土)〜10/9(月・祝)
たちかわ妖怪盆踊り2023
有料のやぐらステージにはスチャダラパーやどんぐりず、珍盤亭娯楽師匠、石野卓球などが出演。

10/28(土)
すみゆめ踊行列
関東大震災から100年の節目に、被害の大きかった墨田区で鎮魂の意味を込めた盆踊りを捧げる。