トリップ
開高健が夢見た幻の焼酎とそれにまつわる往復書簡。
2023年9月28日
photo: Hiroshi Nakamura
text: Fuya Uto

「たまたま、市長に“天の川”を供され、感心いたしました。同封のお金をムキダシで恐縮ですが、送料込みです。それで送れる分だけ送ってください」と筆を走らせたのは、あの開高健。世界中の銘品を味わってきた文豪を唸らせた『天の川酒造』は、昔ながらの“常圧蒸留”という伝統的な手法で造り続けている蔵元だ。ただ感動して終わらないのが氏のすごいところで、1978年に当主へと2度目の手紙を送った。そこには、銘柄「天の川」をカメでじっくり熟成させた“VERY OLD”を自作したい願望が書かれ、こと細かく質問や考察が記されていたという。
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中身はほぼ透明。アルコール度数が36%と高めなのも超熟成焼酎ならでは。ラベルには手紙にあった“VERY OLD”の直筆文字が題字に据えられている。¥11,000 -

島には珍しく平野がある壱岐。深江田原平野で育てている収穫前の麦畑。美しい!
時を経て2015年。4代目当主の西川幸男さんが、開高健が“妄想”したレシピをもとに「天の川 VERY OLD」を作り上げた。原酒をホーロータンクで30年間寝かせた古酒はしっとりと角がとれた口当たり。甘みがじんわり押し寄せてくる上品な味わいで、焼酎というよりはブランデーに近い。開高が送った3通の手紙のコピーも同封さていて、2通目の文末に「おそらく天の川もたっぷり寝かせてやれば、十年後、私が五十七才になったときの、老いの黄昏に微光を射してくれるのではないでしょうか」とオシャレすぎる言葉が綴られていた。叶っていたら、飲んだときにどう表現していたか気になるなあ。
インフォメーション

天の川酒造
創業は明治45年。米麹と大麦を原料に3年熟成させた「天の川」の他にも、樽仕込みや原酒をブレンドしたものなど、さまざまな銘柄が揃う。「『天の川 VERY OLD』の完成時には、茅ヶ崎にある開高健記念館でご本人が愛飲したマッカランの隣に飾ってもらったんです」と西川さん。ちなみに島内では、“壱岐焼酎による乾杯を推進する条例”もあり、はじめの一杯はビールでないことが多いらしい。
◯長崎県壱岐市郷ノ浦町田中触808番地 ☎︎0920・47・0108
Official Website
https://amanokawashuzo.com/
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