ライフスタイル

【#4】着るもの問題

執筆: 田辺夕子

2023年9月2日

illustration: Reiko Tada(portrait)
text: Yuko Tanabe
edit: Yukako Kazuno

銀座に来てから、きものを着る機会が増えた。きっかけとなったのは、新年会である。『銀座百点』は、銀座に店を構える122軒からなる協同組合銀座百店会が刊行している。会員店相互の親交を深めるため、毎年1月に大規模な新年会を開催し、職員もむろん出席するのだ。

初めて新年会に出ることになった新人時代、先輩にどんな雰囲気かを聞いた。会場は料亭の大広間で、席は正座という。今までの人生において、まったく縁がないオケージョン……うむむ、正装で行く必要はありそうだ、しかし新人職員として受付を担当したり、挨拶回りをするなど、ある程度の働きが求められる場でもありそう。その先輩が「女子の正装はワンピース!」と話していたことを思い出し、春らしい色のワンピースを着て、最初の新年会を無事に終えた。

ワンピース仕様での新年会は数年続いたが、正座対策がなかなか難しい。タイトスカートで長い時間の正座は苦しいし、フレアスカートだと立つ拍子に裾を踏んづける。どうしたものかと悩んでいたときに、実家の箪笥に母とその妹である叔母のきものが眠っていることを思い出す。
「よっしゃ、きものでいっちゃおう!」
上司の許可も得て、実行に移す。春らしい柄の訪問着を探しだし、母に着付けをしてもらって出席すると、やはり和室での立ち居振る舞いにぴったりとはまる。以降、箪笥の中から順繰りにきものを探しだし、新年会で着るもの問題は解決した。

着てみると、どんどん楽しくなる。以前習っていたけどすっかり忘れてしまっていた着付け方法は、YouTubeを探せばいくらでも見つかった。ハレの日だけではなく、歌舞伎を観るときに小紋を着たり、気軽な食事会に紬で出かける。やがて、状況が許せば仕事でも着るようになった。そうなると会社の人たちも慣れていって、わたしが袖をたすき掛けにして、PCに向かっていてもだれも驚かない。街を歩いていて見知った人に会うと、「きょうはなんの日ですか?」と声をかけられる。

きものがわたしの生活になじんだのは、銀座だからという理由が大きい。和装のお店が比較的健在で、足りないものを思い出したとき、困ったときにはすぐに駆け込んで、相談ができる。なにより、お店の人たちときものについて話す時間は、すごく楽しいものだ。銀座は和装関連のイベントも充実している。今年の8月4日には夏祭りの「ゆかたで銀ぶら」がコロナ禍以前の規模で開催され、盆踊りの会場だったGINZA SIXの屋上には、思い思いのゆかた姿の旦那衆が勢ぞろいして壮観だった。

そんな今新たな問題になりつつあるのは、実家の箪笥で眠っていたきものたちが、どんどんわたしのアパートに引っ越してきて、スペースを圧迫し始めていることだろうか……。

プロフィール

田辺夕子

たなべ・ゆうこ | 協同組合銀座百店会が刊行する、1955年創刊の月刊誌『銀座百点』の11代目編集長。