ライフスタイル

【#2】ら行のお菓子

執筆: 田辺夕子

2023年8月22日

illustration: Reiko Tada(portrait)
text: Yuko Tanabe
edit: Yukako Kazuno

落雁に目がない。

和菓子業界でいうところの打ちものとか、干菓子の系統が好きだ。『銀座百点』の編集スタッフは代々女性ばかりだからか、おみやげにさまざまな菓子折を頂戴してきた。入社したばかりの時期、新入りであるわたしは到来ものをスタッフの人数に分けるという仕事があり、和洋さまざまなお菓子の店を知ることができて、おいしく楽しい作業だった。落雁系のお菓子を頂戴すると、露骨に喜びすぎて先輩社員から不思議がられたものだ。

「へええ、田辺さんって口の中の唾液が全部なくなりそうなお菓子が好きなんだ」といいながら、自身の分を全部、わたしのてのひらにのせてくれた先輩の言葉は今も忘れられない。でも、この表現は的確で、落雁の存在を知る前、子どものころからラムネが好物だった。今でこそおしゃれで大人向けのラムネ菓子も増えているけど、それ以前にはスーパーの菓子コーナーで、ちっちゃい子にまじって中年がクッピーラムネを買い込んでいたものだ。つまり、ほろりと口どけのいい菓子が好みなんだと思う。

今は、食べたくなったらすぐ買いに走れる「銀座のら行のお菓子の店」のリストを持っている。たぶん、雑誌などのスイーツ特集でも落雁特集はないだろうし、この機会にいくつか紹介してみたい。

まず、『いしかわ百万石物語江戸本店』の「愛香菓」。20年以上も前に友人が旅行先のスペインで買ってきたお菓子がおいしくて、スペイン語をまったく読めないながら、ポルボロンという名と味をしっかり覚えこんだ。この「愛香菓」を初めて食べたときに、思い出したのがポルボロン。アーモンドの風味、シナモンのアクセント、レモンの香り、そしてほろりとした口どけ。すべてポルボロンと共通している。だけど、総じて味わうと、やっぱり和の落雁なのが不思議。『金沢うら田』さんという和菓子屋さんの名品だ。

ポルボロン系でいえば、落雁ではないけど、『銀座NAGANO』にもほろほろクッキーがある。『開運堂』の「白鳥の湖」で、缶に描かれているのも白鳥なら、真っ白なクッキーひとつひとつにも白鳥。そしてとても繊細な口どけも、落雁に近い。白鳥の湖と同じ棚にある、『小布施堂』の「楽雁」も忘れずに買う。赤えんどう豆の粉に栗蜜を練り込んだ、こちらは純和風の素朴なおいしさ。個人的には「白鳥の湖」は紅茶、「楽雁」はほうじ茶がよく合うと思う。

緑茶に合わせる落雁なら、『銀座瑞花』の「米百俵」をすすめたい。『瑞花』はおかきの専門店なので、「なぜ落雁?」と驚き、食べてもっと驚いた。長岡に伝わる米百俵の精神を菓銘にしているので、米俵の形をしている。そして材料は国産米を粉にした寒梅粉と和三盆糖。つまり、米と和三盆の甘味だけを結晶にしたような菓子なのだ。懐かしくやさしい甘さだけが広がって、そして消えていく。地味だけど滋味なのだ。

ら行のお菓子、同好の士でもそうでなくても、味わってほしい。