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こんな仕事があったのか!/苔農家・佐藤靖也

2023.07.12(Wed)

text: Fuya Uto

 苔をルーペで覗いたことある? 見慣れた植物にこんな景色が隠されていたのかと驚くから騙されたと思って見て欲しい。フサフサ、ギザギザ、クネクネ、ツルツルetc……。多様な形状が入り乱れ、まるで異世界の森に入り込んだような感覚になる。そんなミステリアスなビジュアルもあって、近頃、多肉植物に続き、観賞用にしている人も増え始めているようだ。ただ、それは苔の魅力の一つにすぎないと教えてくれたのが、苔農家の佐藤靖也さん。ん? 農家? そう、苔を“栽培”しているのだ。そこら中に生えているあの苔を。

苔の寄りカット
一本の茎葉体 (仮根から伸びる葉っぱのこと)が密集して形作られる苔は、発芽分岐をしクローンが派生して増えていく。一方で分岐するスペースがなくなると、頭に潜水艦の潜望鏡のようなものが出現後、パカっと開き胞子を散布してエリアの拡大を図る。

「父が医療用ワクチンを作るために植物研究をやっていて、苔の中に認知症に効く“薬効”を世界で初めて発見した人なんです。それもあって、小さい頃から苔は身近な存在でした」

 かなりユニークな家庭環境だが、もちろん最初から苔を仕事にしたいと思っていたわけではない。そのきっかけは、高校卒業後、デザイン業に従事していた頃。

「生まれ育った新潟は盆栽の苗木の産地として有名だったのですが、盆栽と違って苗木は日の目を浴びていなかったんです。それに関して少し悲しい気持ちがあって、苗木の良さを地元から国内外に伝えたいと思い、注目したのが苔玉でした。草花の根を丸くした土で包み、その上から苔を貼るという古くからある文化ですが、農家さんと協力して、桝を器に草花ではなく、盆栽の苗木を植え込んだ「MASSMOSS」という商品を作ってみたんです」

盆栽仕立ての苔玉「MASSMOSS」は、2015年にグッドデザイン賞を受賞。両手で持てる小ぶりなサイズ感も可愛らしい。枡は林業復興の想いも込め、間伐材で作られている。

 2013年、栽培・販売をスタートすると、クールジャパンブームの影響もあり、パリのデパート『ギャラリー・ラファイエット』に招待され、ポップアップショップが開かれた。反響は大きく、海外の日本料亭のインテリアとしても取り入れられ始め、現地に住む建築家やデザイナーなどから注文が殺到。さらに、苔の存在を知った人から自宅に日本庭園で見られるような苔庭を作りたいという相談も受けるようになった。ビジュアルとしての魅力を実感するとともに、苔の不思議なチカラを知っていく佐藤さん。

「苔は “仮根”という足のような部分があり、そのおかげで土が不要で、垂直面や険しい環境でも着生する“順応植物”と呼ばれる植物。父が発見した薬効以外にも色々な効果があって、大気中に浮遊しているPM2.5を養分にするという空気清浄機能があったり、モミラクトンという人間には無害で植物にとっては毒になる性分のおかげで雑草防除の作用があったりするんです。あと、通常の植物は土壌の微生物によって分解されてCO2を大気中に放出しますが、苔は腐食のスピードが緩やかなので吸収したCO2が体内に留まり放出しない。それ自体は木と同じ役割ですが、木と比べて吸収する初速が圧倒的に速いのが特徴なんです」

 万能すぎるじゃないか……! しかし、観賞用としてしか認知されていないのが当時の実情。そこで、佐藤さんが思いついたのが苔のシート化だった。

「日本固有のスナゴケ、シッポゴケ(カモジゴケ)、シノブゴケは地べたを這うように繁殖するのですが、そんな生態と仮根の特性を活かして、シート状で栽培できたら……と思ったんです。世の中的にも全く新しいチャレンジで、6年間、和紙・不織布・タオルなど約300種類の素材に種を撒く試行錯誤を繰り返しました。そのなかで3枚だけ成功して、シートにびっしりと生える法則を見つけたんです」

 6年越しに完成した苔シートを手にロンドンのエースホテルで展示を行うと、家の緑化が直近の問題になっていたロンドンでは大きな話題になり、地元のテレビ局なども取材に来るほど大盛況に。それを見たポーランドのワルシャワ科学大学教授から「今後の世界で当たり前に普及する革命的マテリアルだ」と技術提供の依頼がくるなど、苔のパワーが世界的に認知されることになった。

「家の緑化を芝生や草花などガーデニングで行うとすごいコストがかかるけれど、苔のシートがあれば簡単に屋根や壁面に貼ることができたり、軽量で絨毯のように丸めて運べるのと、植物ではなく、資材として輸出できるというメリットも注目されました」

 その少し後、日本では企業が抱える問題を解決する救世主としても注目され始めた。

「日本でも建物や地域の緑化が優先事項になっていたのですが、芝生や草木を植えるのはプロの技術が必要で、管理にもコストがかかっていました。けれど、苔は雑草も生えないし、一度、土地に順応すれば、あとは手をかける必要がないんです。その特性を活かして、緑化の問題を抱えている企業に苔シートを提案し始めたのがここ数年の出来事です」

種は仮根が伸びやすいサイズにするために細かく粉砕することが大切。蒔く場所は低コストの耕作放棄地を活用すれば、地域課題の解決としても一役買う。

 10年以上も苔のポテンシャルを信じて、トライ&エラーを繰り返してきた佐藤さん。現在はJR東日本と地下鉄や遊休地の緑地化プロジェクトを進めるなど企業との協業を進めている。また、庭師としての活動にも力を入れているという。

「苔シートで企業が抱える問題を解決することももちろん、最近は若い人が副業として苔農業を始める仕組みを作れたらとも考えています。実は苔は米に比べると農業としての利益率が高いし、作業時間も圧倒的に少ない。苔農家が増えることで、日本中で作付けされていない農地が放置されている流れを止められたらと思っているんです。苔を使って小さいアクションを起こし続けることで、少しでも社会をよくすることに繋がればいいなと思って」

プロフィール

佐藤靖也

さとう・やすなり|1968年、新潟市秋葉区生まれ。2015年に<グリーンズグリーン>を創業。日本らしい盆栽仕立ての苔玉の販売から、苔をマテリアルとして使う方法を開拓。アウトドアメーカーに12年勤務していた経験もあり、大の自然好きで趣味は登山。

インフォメーション

佐藤さんが苔シートで会場を彩ったポップアップが伊勢丹で開催中!

偏愛百貨店×ISETAN ーリメイクするほど、愛おしいー
https://www.mistore.jp/shopping/feature/living_art_f2/livingroom55_l.html

会期:7月12日(水)~18日(火)

会場:伊勢丹新宿店 本館5階 センターパーク/ザ・ステージ#5

電話:03-3352-1111 大代表

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