カルチャー

小さな店のはじめ方。Vol.7

編集者、タコス屋になる。

2022年12月23日

photo & text: Taichi Abe
cover design: Bob Foundation

 世の中は「知らないこと」もたくさんだけど、「知っているつもり」になっていることも数多い。お金もそのひとつだ。僕の実家は蕎麦屋だったから、そこで働く人たちがいた。休み時間に彼らが食べるアイスを買うために、祖父は小学校低学年の僕に1000円を握らせて近くの酒屋さんにおつかいをさせた。僕が足を運んだ酒屋さんの冷凍ケースには、50円と100円のアイスがぎっしり詰まっていた記憶がある。100円だと10個買えて、50円だと20個買える。2つの選択肢をミックスするとどうなるんだろう。思い返すと、酒屋さんへの道すがら、あれやこれやを考えながら、握りしめた1000円がくしゃくしゃになったその時期が「お金」について考え始めたスタートだった。

POP UPでイベント参加することもしばしば。売り上げの動きや内訳を見られるから面白い。

 そして今。30年以上も経った今、お金について「知っているつもり」になっていたことを痛感する毎日だ。税金はどのような仕組みで徴収されて、どれくらい支払っているのか。毎月支払う社会保険料って何だ。浪費と投資の違いはどこにあるのか。そもそもお金って何のためにあるんだ? およそ20年間、僕は会社員だったから、幸せなことにお金に関する手続きのあれやこれやは経理部の人に面倒をみてもらっていた。知ろうと思えば知れることを怠けていた結果が、現在の僕の「無知」へと繋がったことは明白だ。だから、学校では教えてくれなかった(←これは日本の問題)お金のことについて、学び、考える毎日を送っている。日々、世の中の状況は変わるし、それに伴って新しい社会の仕組みや金融商品が生まれているから、その最新情報をキャッチアップすることも大事だけど、お金に対する先人たちの姿勢や考え方は今もなお通用する気がして、ウェブと本を頼りにお金に関する今と昔を行ったり来たりしている状態だ。

本棚に並ぶ、お金やビジネスに関する書籍も増えてきた。以前は読まなかった部類の本も。

 そんな折、店舗改装の見積もりが出てきた。資材が高騰したり工場がストップしているから、建設コストはコロナ禍以前に比べて1.5倍くらい上がっていると聞いていたが、僕の想定予算のきっちり1.5倍の数字が見積書には載っていた。500円のランチが750円になっているのとワケが違う(もちろんそれだって問題なのだが)。絶望と称するにふさわしい気持ちを湛えながら設計士と話をする。僕の「やりたい」をたくさん詰め込んだ店舗設計プランから、とにかくできる限りの引き算をする。引き算をしていると、自分が本当に大事だと思うポイントが明確になってくるから不思議だ。潤沢な資金があることはハッピーなことだけど、自分が本当にやりたい店をつくろうと思ったら「資金が限られていること」はとても大事なことだと自覚する。特に、はじめての分野にチャレンジする僕にとっては、頭をフル回転させながら勉強するよいきっかけとなった。

銀行にアプローチするための事業計画書を作成。企画書づくりは編集者としては慣れた作業(笑)。

 とはいえ、自分が準備している資金だけでは、できることが限られすぎる。さらに資金を貯めることも考えたが、僕はもう43歳だ。時間があるようでそれほどない。だから僕は、「時間」を優先して借金をすることに決めた。やりたいことを実現させて、その先にある儲けで「お金」を返す。資金ファーストではなく、時間ファースト。もっと言うと、やりたいことファーストだ。慎重に算盤を弾くものの、その金額は決して小さくない。借金は大人の嗜み、なんて先人が言っていたけれど、パイセン、それは本当かい? よちよち歩きを始めたばかりの起業バンビの脚は、その数字を前にさらに大きく震えている。

プロフィール

阿部太一

阿部太一

あべ・たいち | 1979年、香川県小豆島に生まれて東京で育つ。大学卒業後、2002年にマガジンハウスに入社。anan、BRUTUS、Hanakoの3部署で編集者として活動した後、2022年4月に退社。両親で3代目となる「みよし屋」の屋号を継いで、フリーランスとしてエディターを続けながら、タコス屋オープンに向けて準備中。2022年末のオープンを目指していましたが、着工が遅れてごめんなさい! どうやら来年のオープンになりそうですが、そろそろ店舗スタッフも募集します。興味がある方、DMください!

■スタッフ募集/DMアドレス
info@miyoshiya-tacos.shop