まるで〈ビルケンシュトック〉の博物館。
2022.12.13(Tue)
text: POPEYE
ニューヨークで行われた〈ビルケンシュトック〉のイベントを取材。
スティーブ・ジョブズのサンダルがあったり、ウーピー・ゴールドバーグもいたよ。


クリスマスムード漂う初冬のニューヨークで〈ビルケンシュトック〉のイベントが行われた。中はまるで博物館。知らなかった“ビルケン”を知る良い機会になった。まずはボスをご紹介。2メートルのこの大きなジェントルマンこそ、CEOのオリバー・ライヒェルトさん。表舞台にはあまりでてこないレアキャラ。握手した手も、履いていたサンダルもとにかく大きかった。普段はドイツにいるけど本社の主要スタッフを引き連れてニューヨークへ。ちなみにドイツでは「ヴァーケンストック」と発音するみたい。冬のニューヨークなのにみんな裸足でサンダル履いていて驚いたな。

展示品の目玉のひとつはこの少しくたびれたサンダル。かつての持ち主はあのスティーブ・ジョブズだ。これは「アリゾナ」というモデルで1973年に誕生した。当時のアメリカはヒッピーカルチャー全盛期。ヒッピーが愛したことでも知られるこのサンダルを、この文化に深く傾倒していたジョブズもまた履いていた。シンプルで実用的というのは、ジョブズの愛用していた黒いタートルネックやジーンズにも通じるキーワードだね。

〈ビルケンシュトック〉と言えば足裏の形に沿ったインソールだけど、ルーツは古く1896年。当時、硬い金属製がほとんどだった中、コンラッド・ビルケンシュトックさんが柔らかいインソールを開発し、足の寝床、つまり「フットベッド」と名付けた。ではサンダルのルーツは何かと言えばこちらの「マドリッド」。これが1963年に生まれたサンダルの第1号。ちなみに僕らの定番「チューリッヒ」や「ボストン」はそれぞれ1964年、1976年に誕生と、思っていた以上に古かった。親の世代が履いていてもおかしくないクラシックなサンダルだと改めて知った。
ディオール、ジル・サンダー、マノロ・ブラニクなど歴代コラボレーションも。これらは「1774 ビルケンシュトック」と呼ばれるラグジュアリーラインでメゾンやデザイナーとコラボレーションなども行う。企画から発売までだいたい2年ぐらいかかるんだとか。結構な手間暇かけて作っている。
なんと欧米市場では本当の「ベッド」も作っていた。フレームもマットも数種類用意されていて本格的。レザーにコルク、天然ゴムという素材の組み合わせは”ビルケン”そのもの。クッションやコイルにもコルクの技術が応用されている。アウトソールの模様がついた抱き枕もいいね!


以下はおまけ。イベントの前に「マスタークラス」という勉強会が行われたときのことを少しだけ。
〈ビルケンシュトック〉が何より大切にしているのは「自然な歩行」。1774年にドイツの教会公文書に最初にその名前が記されてから約250年。長い歴史の中で培われた「フットベッド」はほとんど形を変えずに今に至る。解剖学に基づいたサンダルをアメリカで最初に受け入れたのはアパレルショップではなく健康食品店やそこに通う顧客だったというストーリーもその精神を後押ししている。〈ビルケンシュトック〉ならばどのサンダル、靴を選んだとしてもそれは変わらないというのが大事な安心感につながっているんだよね。