トリップ
【#1】旅する音楽評論家
2022年9月11日
photo & text: Salam Unagami
edit: Yukako Kazuno
僕の仕事は音楽評論家、DJで中東料理研究家。良い音楽と美味い飯を求めて、世界中をほっつき歩いてきた。実は今も、キプロスとアルゼンチン、カナダから来た音楽アーティストたちと一緒に、富山から東京へと向かうバスの中にいる。富山県南砺市で毎年開催されている老舗ワールドミュージックフェスティバル『Sukiyaki Meets The World』での3日間の張り付き取材を終え、今度はその東京公演へと向かう道筋だ。
音楽評論家の仕事の大半は自宅にいながらにして行える。ネットやレコード会社、リアル店舗や友人、ライブハウスやフェスティバルなどを通じて知った音楽について、そしてアーティストについて、主に誰か(編集者やプロモーターなど)から依頼されて、ネットや雑誌や新聞などに書き、ラジオやテレビなどで紹介するのが仕事の中心だからだ。外出が必要なのはアーティストへのインタビューやコンサートやフェスティバルのリポートをするときくらいだ。
だが、僕は良い音楽と出会うと、その音楽が生まれた文化や背景を猛烈に知りたくなる。インターネットから多くの情報を得ることは出来るが、それだけでは僕はどうにも満足出来ないのだ。そして誰に頼まれてもいないのに、アーティストに直接連絡し、彼らの国や街を訪れ、そこでコンサートや音楽フェスティバルに行き、インタビューを行い、写真撮影し、ときには料理を習い、その体験が自分の中で腑に落ちるまで時間をかけて付き合う。
今年はこの後、マレーシア、ポルトガル、スペイン、モロッコを再訪する予定だ。それぞれの場所で、音楽を作るアーティストがいて、彼らの音楽を回すDJがいて、フェスを興すオーガナイザーがいて、僕のような音楽評論家もいる。伝統に即しながらも全く新しいタッチの料理を作るシェフもいる。そして、そのうちの幾人かとは親しい友人になった。
もちろんこうした旅/出張の大半は自腹だ。なぜそんな面倒で儲からないことをするのか? それは結局のところ、「何のために生きているのか?」というありふれた問題に帰着する。僕の答えは「素晴らしい音楽を聴き、美味い料理を食べ、良き友人たちと出会う」ことだ。旅をすれば、するほどに、知る音も味も人間も増えていく。ザ・ビートルズ時代のジョージ・ハリスンは「旅をすればするほど、自分が知らないということを思い知る」と歌ったが、僕はスピリチャルな人間ではないので、その境地には達せそうにない。馴染みの音楽、馴染みの店、気のおけない友人たちが世界中に増えていくのは単純に嬉しいじゃないか。
プロフィール
サラーム海上
Official Website
www.chez-salam.com
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