カルチャー

【#3】役者の○○○、だった頃

2022年6月26日

役者として、最初の映像の仕事は
『47Ronin』だった。
自分の緊張を、乗っていた馬が
敏感に感じとってしまい、
全然いうことを聞いてくれなくて、
苦労した記憶が苦い。

その時に共演させて頂いた真田広之さんと
ロサンゼルスで食事をさせていただいた。

「今度は親子役で共演できたらいいな」

そう言っていただいた半年後、驚くことに
親子どころか、同一人物を
演じることになったのが
『レイルウェイ 運命の旅路』だった。

灼熱のタイで、
謎の白い粉を背中に振りかけながら、
軍服姿でコリン・ファースを連行した。

他の、異なった時間軸にいる個々の場面も、
終戦後の:コリン/真田さんチームと、
戦時中の:ジェレミー/淡朗チームは
まるで一つの劇団かのように、
交互に撮影を重ねる日々が続き、
私は、多くのことを学ばせて頂いた。

『能』的な、針穴に糸を通すような演技、
インプロで培った、即興性、
演劇学校で得た、汎用性と職人的なスキル、
螺旋から得た、自分に適した、役づくり。
それらが繋がった瞬間だったかもしれない。

残虐な日本兵(軍属)という、
現代的な感覚では理解し難い役柄
しかも実在した人物にどう望むか。

取調べのシーンは、まさに
一騎討ちの真剣勝負だった。
コリン/真田さんチームのシーンを見て
それに触発されたジェレミーも
本気で細やかな演技をしてくる。
それを読み取り、こっちも撃ち返す。
ゾクゾクする現場だった。

仮画像

カンチャナブリを流れるクワイ川)

イギリス式の演技法では
一に聴くこと、二に聴くこと、と習う。
『傾聴』が役者のスキルとして
最も重要であるとして、あとは、
それに対するリアクションで
演技はある程度、成り立つ。
(しかし、これが実は一番難しい)

また、大女優であるメリル・ストリープは
「役者とは共感する職業である」と言う。

ヒトラー役を演じるには、彼と自分自身に
何かしらの共感を見出さなくては、
彼を演じることは出来ない。

ナガセという謎に包まれた人物に共感し、
そこに映画作品として作り上げられた
台本上の彼の姿を重ね、自分の中に
取り込んでいかなければならない。
彼の眼差しも、弱さも、残虐性も。

仮画像

(ロンドンの地下鉄駅で向き合う2作品)

ロンドンで、ある仮装パーティー
に行った時、英国軍服の仮装を見かけた。
突如、そのイギリス兵たちの姿に
言い様のない嫌悪感を抱いた。
自分の中にナガセが出来上がっていると
安堵した瞬間だった。