カルチャー
【#2】イギリス人の〇〇〇、だった頃
2022年6月19日
text: Tanroh Ishida
「狂言師の石田淡朗」
という存在意義を失い、
単なるアジア人になった僕は、
イギリス人にならねばと思った。
丸首を着るのをやめて、襟付きのシャツ
のみを着ることにした。
新しく買った服は袖が長すぎたので、
腕を伸ばそうとストレッチをした。
ナイフフォークの使い方と、
遠回しなものの言い様を真似した。
その一つの到達点として、
世界的な演劇祭である
エジンバラ・フェスティバルで
英国風の漫才形式で、
狂言を紹介する一人芝居を1ヶ月間公演し、
地元主要紙から5つ星の評価を
受けるまでになった。
(エジンバラ・フェスティバル『Kyogen -Raw and Uncooked』)
こうなると、少し欲が出てくる。
高校生活のほとんどの時間を、
木々に囲われた校内の劇場で
過ごしていた僕は、
「演劇学校を受験してみないか?」
と誘われた。
当時、受験生は4000人程度、
合格者は26人。
帰国前の経験、
話の種に、と思って受験した。
そんなあり得ない倍率で、
ロンドンのギルドホール演劇学校に
進学した。
OBには、ジェームズ・ボンド、
オビワン・ケノービに、エルフ。
一つ下の後輩はシンデレラになった。
日本人は自分しかいなかった。
(ギルドホール演劇学校 廊下)
イギリスの演劇学校は、
その歴史の長さから、
役者育成のためのカリキュラムが
練り上げられている。
感覚で、なんとなく演じる
という抽象的なものを嫌い、
心技体、全てにおいて
確信犯的に演じることのできる
マルチで職人的な役者を
3年間かけて作り上げる。
1年目は、それまで持っていた
癖や固定概念を崩す。
2年目は、
その真っ白なキャンバスとなった、
脳と、身体、精神に
ありとあらゆる分野や形式の、役者として
いつか必要になるかもしれない
スキルと知識を詰め込まれる。
3年目は、
過去2年間で得たもの、
一旦は失ったものの実践と応用。
まるで螺旋の様に、1年目で一旦は
手放した自分の個性や特性にふたたび、
今度は、技能フル装備で、
立ち返ってみることを求められる。
幼い頃から吃りに悩まされていた僕は、
稽古中も度々吃ってしまい、
先に進むことが出来ないこともあった。
でもなぜか、インプロでは
決して吃ることはなかった。
(即興演劇 The Improsarios)
事前の相談や、途中の話し合い一切なしに、
45分間の芝居を、観客からの提案をもとに
その場で作り上げる。
そんなスタイルの公演をしていた。
笑いをとるよりも、
泣かせる物語を目指していた。
プロフィール
石田淡朗
2018年より再び人間国宝・野村万作 / 野村萬斎に師事、国内外の狂言公演に参加。学習院大学非常勤講師。能楽協会会員。
Instagram
https://www.instagram.com/tanrohishida
Twitter
https://twitter.com/tanrohishida
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