TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#2】YO, NEWYORK MESSENGER!

2022.04.17(Sun)


text & photo: Izuru Shimasaki
photo: Kevin Dillard / demoncats.com
edit: Yukako Kazuno

 1日目のデリバリーを全て終えてオフィスに戻ると、ボスのロジャースがそう言って僕をハグした。名古屋と違ってビルは巨大で正面からは入れないしダウンタウンのあたりは道も複雑だ。それでも思ったより普通に仕事をこなせた。それからは毎日走った。世界的なモデルエージェンシー、デビッドボウイのNYオフィス、ローリングストーンズの元マネージャー。ロジャースはいちいち自慢げに説明をつけてくるけど、ただ切れ目なくオーダーがあるのがよかった。無線は混線して使えないから連絡は携帯。朝、外に出て自転車に跨りディスパッチャーに電話をすると「伝票6枚用意して」、道端で伝票を書いてピックアップに向かう。それが夜まで続く。次のこの伝票の束が終わった時には僕はどこにいるだろう。メッセンジャーの仕事は僕をマンハッタンのあちこちに連れてってくれる。そんな風にオーダーをこなす毎日はとても幸せだった。

http://www.demoncats.com/

 ニューヨークには自転車の市民団体がいくつかある。ある日友人がその一つの拠点に連れて行ってくれた。TIME'S UPというその非営利の市民団体は無料の自転車修理講座、自転車での死亡事故があった場所に置かれる真っ白にペイントした自転車:ゴーストバイクの設置や、自転車の権利を訴える集団走行:クリティカルマスの呼びかけを行っていた。そこで廃棄自転車を直して必要な人に譲渡するリサイクルプログラムのボランティアとして週末に通っているとそこではメッセンジャーも多く働いていた。名古屋にはそんな団体がなかったし、そもそも2010年前後のピストブーム以前は街中をスポーツバイクで走る大人は全然いなかったから必要性もなかったんだと思う。

 僕らはアンダーグラウンドな存在で黒子のようにクルマ社会の隙間を走っている。そういうものだと思っていた。でもニューヨークでは違った。街の人の多くがメッセンジャーのことを知っているし、メッセンジャーの方も自分たちが社会的な存在であると認識している。一緒にボランティアをした中にはのちに世界チャンピオンにもなった若いメッセンジャーもいたし、みんなが知っている有名なメッセンジャーはメーカーからもらった自転車のライトを街中で配っていた。みんながそういうわけではない。だけどどちらにしても僕らは社会の一員であると実感できた。

 メッセンジャーの社会性、今まで考えたこともなかったようなことだった。そんな変化を抱えて日本に帰ってきた。

プロフィール

嶋崎出

しまさき・いずる | 変わった名前なのでメッセンジャーネームもイズル。デイジーメッセンジャー代表。30歳までの腰掛のつもりで始めたメッセンジャーを46歳の今もやっています。シルクスクリーンプリンターでもあり趣味のバンドではオルガン担当。2児の父。富山県出身。

Official Website
http://daisy-messenger.com

 

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