CULTURE

街の自転車店に目を向けると、思わぬ発見がある。

サイクリングショップツバサ

2021.12.08(Wed)

photo & movie: Taro Hirano
text: Toromatsu
movie edit: Ryoma Uchida
special thanks: Kosuke Ide

自転車が欲しいと思うと、つい今どきのインポートものが並んでいるショップに目が行きがちだけど、実際に行くと初心者お断り的な空気感に負けそうになったり、どうも流行り感が強く思えたり、単純に予算オーバーだったりなど、思いのほか決定打にかける。いっそ目線を変えてみてはどうだろう。近くにある街の自転車店なら、購入してもメンテナンスが楽チンだし、意外となかなか目にしないカッコいい自転車が眠っているケースだってなくもないかも。

世田谷通りと、世田谷町田線という小さな通りが繋がる角地にある、なかなかレトロな佇まいの『サイクリングショップツバサ』。新車のシティサイクル、つまりママチャリが数台置かれている店前では、店主がいつも、学生や主婦が持ち込んだ自転車をせっせと修理をしている。外観こそ少し強烈ではあるが、いわゆる街の自転車店の光景が見られる。

しかし、侮るなかれ。工具が散らばった足場の少ない店内に入り込んでみると、スポーツ車や、輪行(公共交通機関を使用して、自転車を運ぶこと)ができる自転車が飾られていて、しかも、看板にあった鳥のマークがエンブレムになっているオリジナルフレームの自転車まで見られる。実はここは、知る人ぞ知る“旅する自転車(ツーリング車)”の店でもあったのだ。


ツーリング車は、ランドナーとも呼ばれていて、街乗り、遠乗りはもちろん、キャンプ旅行用途で使われることが多く、バッグ類をたっぷり積み込める仕様になっているのが特徴。1960年代後半から1980年代初頭までに起きたサイクリングブーム期に人気を博し、車体に寝袋などを引っ提げ、重たい荷物を積んで旅に出かけることに多くの若者が憧れた。

店主の大野元さんも例に漏れず、学生時代にムーブメントの影響を受けたひとりだが、果てにお店を始めただけなく、その頃から今も変わらずツーリングに励み続けているのだ。時には朝9時のお店のオープンまでにサイクリングに出かけているほど、三度の飯より走るのが大好き。休みの日になれば自転車で神社仏閣巡り。勝沼城の城跡の写真を撮りに青梅まで走ったり、新茶の時期には狭山にお茶を買いに走ったりしているというから、遊び方もめちゃくちゃかっこいい!

子供の頃からいつも一人で遠方まで走っていた元さんが『サイクリングショップ ツバサ』をオープンしたのは1985年。元は川崎市で営んでいたけど、化粧品店『おしゃれの店 ツバサ』として両親が営業していたここに1998年に移転したのだという。ここで生まれ育った元さんは「自分の小さい頃は世田谷通りがなくて、反対側の小さな道がメインだった。世田谷通りは1964年の東京オリンピックの時に馬事公苑につなげるためにできたんだよ」と教えてくれた。長年いろんなところを走ってきているから山道に詳しいのは当然、街の旧道をさりげなく教えてくれるのもこの店の良さのひとつだ。

八王子市とあきる野市を結ぶ入山峠にて、ロイヤルズのスタジャンとトレパンの若かりし元さん。これぞ世田谷の“おしゃれの店”で生まれ育った真のシティボーイのいでたち。

ただ走るのが好きというサイクリストとは一味も二味も違ううえに、キャリアもあるのに街の自転車屋に徹しているのはなぜなのかを聞くと「ツーリング車ってクラシックな店がほとんどで、お客さんもマニアみたいな人が多いから普通の人が入りづらいでしょ」とまるで、僕たちの意見を代弁するかのような言葉を投げかけてくれた。この店がいわゆる専門店然としていないのは、誰でも気軽に“走るのが楽しくなってほしい”という思いからなのだろう。

そのマインドは扱われている自転車からも感じ取れる。クラシックな〈ツバサ〉フレームのものでも、ドロップハンドルではなくフラットハンドルにすることで楽な仕様になっていたり、本格的ツーリング車ながら街でも走りやすいミニベロを作っていたり、〈ケルビム〉のヴィンテージフレームを使っているのに今のパーツでセッティングされていたり、店にあるものは何を見ても、誰でも楽しめる肩の力が入っていないものばかり。世田谷で生まれ育ち、街の道も、遠くの山道も体験してきたからこそのスタイルが自転車にも表れている。

しかも『サイクリングショップ ツバサ』は修理の腕前も評判で、日本一周途中のサイクリストが、東京を経由する途中でわざわざ調整に伺うほど。そんな元さんに修理を覚えるうえで一番苦労したのは何かと聞くと「ママチャリの仕組みを覚えていくのが苦労したね」と答えた。自転車に乗る人に分け隔てなく“走る楽しさ”を伝えるため、シティサイクルにも目を向けている店主の姿勢を知ると、ぼくらの街の自転車を支えるツバサのオリジナルツーリング車に乗ることが何よりもかっこいいんじゃないかと思わされた。

インフォメーション

サイクリングショップ ツバサ

◯東京都世田谷区世田谷1-48-14 ☎03-3429-4177 9:00〜19:00 水曜休
www.cyclingshop-tsubasa.com
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