ライフスタイル

ジャズと数学とズボン。(イン・アザー・ワーズ,シカゴ.#1)

絵・文/Korey Martin

2021年12月2日

text & illustration: Korey Martin
translation: Catherine Lealand

 毎朝、パートナーが2000年製のスバル・フォレスターで街のパン屋さんに出勤する前、僕はコーヒーを入れながらレコードをかける。たいていはジャズで、Sun Raが多い。うるさくないといいな。そう思いつつ暮らしている僕らの新居は、シカゴの歴史的な地区ローガン・スクエアにあって、大通りやジバリート、ローガン・シアター、お気に入りのコーヒーショップ「4LW」などがあることから選んだ。彼女が仕事に行ってしまうと、部屋には僕と猫たちと、それからうるささへの不安だけが残る。その不安が僕をあらぬ妄想へと導く。寝ている隣人のすぐ近くで、マイルス・デイビス・クインテットが演奏している姿だ。

 シカゴは秋にとりわけ輝く。だけど、シカゴの住人たちはすぐにまたあのつらい冬が来ることをよく知っている。見知らぬ人たちとでも通りすがりに「シカゴ!」と言葉を交わすのは、自分たちがどこにいるのかを思い出すためだ。にもかかわらず、シカゴの住人たちが嫌うこととして知られるすべてのものーー絶えることのない建設工事、おんぼろの「L」列車、苦いマロート(シカゴのリキュール)ーーは、僕がこの街を愛する理由になっている。毎年冬になると宣言する。「今年で最後だ!」と。だけど、ここに留まっている。謎だ。

 タータンチェックのスカーフを巻いて、洗濯物を地下のランドリールームに運ぶ。最近、古いドアに数学の方程式が書き込まれているのを見つけた。それは既に誰かによって解かれたものだけど、今の僕にとってはミステリーだ。こういうものを僕は”ノンス “と呼んでいて、僕の作品の多くはこの手のものからインスピレーションを得ている。ただ、最近の私の関心の大半を占めているのは、間違いなくズボンだ。

 何十年もの間、僕の中で「完璧なズボン」というものは存在しなかった。だけど先日、Alcala’s Western Wearを訪れた際、50年前のラングラーの山の中に、完璧ではないにしても、少なくとも現時点でのベストと言えるズボンを発見した。Wrangler 13MWZは、シカゴのアーティストやミュージシャン、シェフ、運び屋、たまにカウボーイがよく履いているが、私が選んだのは70年代の微妙なシルエットで、12インチのライズ、ナイフのように鋭いプリーツのWrancherだ。ワードローブのAdidasとヴィンテージのクルーネックを、感性を損なうことなく調和させてくれる。

 ズボンについては、永遠に語り続けることができる。ズボンについて語ることは、まさに街について語ることの別の方法だと思う。スタジオで仕事をしていても、フリーマーケットで買い物をしていても、でこぼこの電車に乗っていても、シカゴの冬に耐えていても、このズボンは、この街で生活し、仕事をする僕を補ってくれている。今日は、前回のAlcala’sへの旅で忘れてしまったボトルグリーンのズボンを探し、裏で黙々と仕事をしている驚くべき速さのテーラーを訪ね、どうして僕がこれほどまでに街というものを愛しているのか思いを馳せてみよう。誰もが常にどこにでもいる。すべてのことに誰かが関わっている。
 街では、あらゆる場所に意味を見出すことができる。その意味がよくわからない場合もあるけれど、自分にとって意味のないことでも、誰かにとっては意味がある。見慣れないもののなかにも、見慣れた部分はあるのだ。ランドリールームの中の方程式や、他人のズボンの趣味のように。

プロフィール

Korey Martin

1989年、テネシー州生まれ。シカゴ在住のアーティスト。その印象的な走り書きのようなドローイングは、最近では「The Quarantine Times」「Actual Source Books」に掲載されている。「POPEYE」の2020年11月号に掲載された卵料理企画のページにも、素敵な作品を寄せてくれた。