カルチャー

The Messenger from the Sea

マイク・エーブルソンさんが教えてくれた、貝殻から受け取る海の安らぎと奥深さ。

2021年11月10日

photo: Shingo Akiba
design: Postalco Design office
2012年8月 784号初出

 機能優先でデザインされた無機質なモノに囲まれて生活していると、ふと寂しくなる。そんなとき、貝殻は私にとって欠かせない存在。家ではベッドサイドや洗面台など、部屋のあちこちに置いている。時にはその手触りを楽しみ、表面の模様をじっと眺める。そうすると、不思議と気分が落ち着いてくる。

貝のうねったような曲線が、波のラインと似ている。貝の模様は、小さい頃の形のまま、少しずつ同じ比率で積み重なっている。

 貝殻の色や形がきれいでファンタスティックだからというわけではない。砂浜で拾った、どこにでもある貝殻でいい。幾層にも重なった波のような曲線模様は、貝が成長の過程で刻んだ時の流れであり、自然が作り出した有機的なデザイン。その貝が、海でどんなふうに大きくなったのだろうかと想像すると、少しずつ心が安らいでくる。夜寝る前に、歯を磨いているときなんかにね。貝殻が持つ独特なフォルムは、嵐の中の荒波や砂浜に打ち寄せる波のように見えてきて、頭の中はベッドルームから海へと飛び立つ。

 貝殻を手に持って少しずつ角度を変えて観察すると、いつも新しい発見がある。人間のこぶしのように見えたことも。同じ貝殻でも場所によって手触りはさまざま。つるつる、ざらざら、でこぼこしたところ。人間の作り出した製品とは違い、自然が生み出したものは本当に奥深い、神秘的なものだと感じる。

貝殻の表面のでこぼこは、海や川の中で水流に押されてゴロゴロと転がり、砂や石に削られることで、だんだんとつるつるになっていく。

 貝殻からこの中にいた生き物のことを考えるのも楽しい。空き家に入って、ここに住んでいた人はどんな生活をしていたのかとイメージを膨らませるのに似ている。表面の傷を触りながら、乱暴な性格だったのか、それともサメに襲われたのだろうかとか。

牡蠣はたくさんの数が寄り集まって岩などに張り付く。満員電車のようなギュウギュウ詰め状態が続くので、貝の形も歪んでいく。

 日常の生活の中でも、貝殻があれば自然を身近に感じることができる。人間の体は海の水に近い成分でできている、という話を聞いたことがあるけれど、貝殻を見ながら海のことを考えると優しい気持ちになるのは、それが理由かもしれない。

縦と横とのラインが細かく交差したチェック模様の表面がきれい。外側の荒々しい突起物と、内側のなめらかな表面が対照的。
右/『GIFT FROM THE SEA』日本語訳も発売されている。
左/『ON GROWTH AND FORM』生物の成長の法則を解説。

プロフィール

マイク・エーブルソン(POSTALCO)

1974年生まれ。アメリカ・LA出身。2000年NYでポスタルコ設立。東京・京橋にステーショナリーやウェア、革製品、鞄などを扱う店『ポスタルコ ショップ』(☎03・6262・6338)がある。