ライフスタイル

【#1】 ハムスターと私

2021年7月12日

photo & text: Ran Tondabayashi
edit: Yu Kokubu

2019年の4月、生後1ヶ月のゴールデンハムスターの女の子が我が家にやってきました。

その半年前からハムスターを飼ってみたいという気持ちが強くなり、まず本やインターネットで生態や飼育方法を勉強しました。

実家にいた頃の私はいろんな生き物を飼いたいと言い出すだけで、実際に家に迎えたあとは家族にお世話を押し付ける責任感の無い子供でした。今は夫はいるけれど、飼うとなったらほぼひとりでお世話をする覚悟を持たなければなりません。自分のライフスタイルと性格的に本当に生き物のお世話ができるのか考え抜いて、半年経っても決意が変わらなければ飼おうと決めてからのお迎えだったので、やっと!いう感じで嬉しくてたまらなかったです。

キンクマカラーという色の、小さくてかわいい彼女に「頬(ほほ)」と名付けました。頬は今年の2月末に永眠してしまったので、約2年間を一緒に過ごしました。

寿命の短い生き物なので、始めからいなくなった時のことは覚悟して過ごしていましたが、やはり想像の何倍もキツかったです。悲しみは癒えませんが、楽しい思い出がたくさんあります。今も目覚めるとすぐ頬のことを思い出して、夫と頬のかわいかった話をしています。

ハムスターは夜行性で、頬の場合はだいたい18時頃に起床していました。もともと砂漠で暮らしていた生き物だそうで、水に濡らすのはNG、お風呂は砂風呂で体をゴシゴシしてきれいにします。おしっこだけですが、最初からトイレも覚えてくれました。

夜に30分、6畳の和室を使って散歩をしていたのですが、その時間が頬だけでなく私にとっても毎日の楽しみでした。散歩というよりも本人にとってはナワバリのパトロールだそうです。毎日和室の安全を確認してくれていました。私たちは踏んでしまうことがないように畳に寝ながら頬をずっと目で追います。部屋の隅をチョロチョロと走ったり、ソファや私の体に登ったりします。登れそうにないところでもどんどん登ってしまって降りられなくなったり、遠くにいたはずなのに一瞬目を離した隙に目の前にいたりと、強い好奇心と忍者のような身体能力、スピードもすごいので見ていて飽きません。あっというまに30分が経ちます。

ハムスターは噛む力も強いのですが、忘れられない事件があります。倒れた回し車を直そうとして、私がチーズを食べていたままの手をケージに入れたら、匂いでおやつと勘違いした頬が、ものすごい力で左手の人差し指を噛んできました。たまに甘噛みすることはあっても痛がるとすぐやめたり、体に登ってくるときも肌は避けて服の上を登る優しい子だったのですが、この時ばかりはチーズへの執念でなかなか歯を離さず、指を食いちぎられそうになりました。痛かったです。

頬を飼ってからいろんな変化がありました。自分でも意外だったのが、苦手だった虫が割と平気になったことです。なんでなのか考えた結果、ハムスターはもともと捕食される側の弱い生き物なので怖がらせないような接し方や環境が重要だったのですが、そんなことを学んでいくうちに立場的に近い虫たちのこともダブって考えていたのかもしれません。あとは動き方が似ているのも大きいと思います。サーっと動いてピタッと止まるあの歩き方です。去年の夏のキャンプで大量のフナムシを見たとき、前だったら叫んでいたと思うのに、頬を思い出して平気でした。他の動物全般も前よりずっと好きになりました。

30代になって、生き物と暮らすと生活が豊かになることを知れたことは大きいです。

プロフィール

とんだ林 蘭

1987年生まれ。東京を拠点に活動。イラスト、ペインティング、コラージュ、立体、映像などの手法で作品を制作。CDジャケットや広告のアートディレクションも行う。名付け親はレキシ(池田貴史)。