カルチャー

どうしてクリストファー・ノーランが好きなんだろう? Vol.4

次作『オデュッセイア』妄想族。

2025年11月23日

僕たちの好きな21世紀の映画 グレイテスト・ヒッツ。


photo: Jun Nakagawa
text: Ryota Mukai
2025年12月 944号初出

来年公開するノーラン最新作は西洋古典の映画化。
原作とポスター、1枚の写真から、その内容を想像してみた。

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オデュッセイアってどんな話?

ざっくり解説!

 ひらたく言えば、ヒーローもの。英雄オデュッセウスが、トロイア戦争終結後、故郷の島イタケへ帰る10年間の旅の物語。海の荒波に揉まれたり、ひとつ目の巨人と戦ったり、魔女に翻弄されたり、冥界を歩いたり、神の怒りに触れたり……と、様々な苦難を乗り越える。イタケに帰れば、妻が多くの求婚者に言い寄られている。彼らを皆殺しにして、妻とともにハッピーエンド。本作の肝はストーリー構成にある。物語は時系列が操作されており、オデュッセウスが故郷に帰還したところから始まる。続けて冒険譚を自分で語り(仲間はみな死んでいる)、そして求婚者を皆殺しにするという、特異な順序で進むのだ。ちなみにブラピ出演の映画『トロイ』(2004)は前日譚。予習にぜひ。


ノーラン大好き芸人ななまがりが妄想!

プロフィール

どうしてクリストファー・ノーランが好きなんだろう? Vol.4

ななまがり

2008年に結成。森下直人(左)と初瀬悠太(右)のお笑いコンビ。2人がノーランっぽいと思うネタは「〜達」「G」「けんちゃん」など。どれもYouTube「ななまがりのなんでもやりますチャンネル」で見られる。

ななまがり初瀬悠太(以下、初) 事前に予告編を観たんですけど、もうたまんないですね。神話好きの森下も好きそうな雰囲気で。

ななまがり森下直人(以下、森) その予告編、AIの生成動画らしいよ。

初 え、マジ!? 騙されたわ……確かに役者誰も知らんとは思ったけど。

森 でも、神話の話なんだね。僕は予想するにあたって、事前にポスターを見ておいたんですよ。

初 彫刻が写ってるやつね。

森 ああいう像って、股間が丸見えになってるでしょう。そこから予想したんですけど……モザイクがかかる世界を描くんじゃないかって。今って、コンプライアンスだったり規制が厳しくなってるじゃないですか。ソーセージとか、野球のバットとかボールがモザイクに侵されていく世界。

初 もはやコント(笑)。ポパイ読者に怒られるぞ。

21世紀の一番面白い映画は何か。これまだ、答え出てませんよね。今日はその答えを言い切りましょ〜!『インターステラー』。

森 神話だと聞いて、絶対違うなとは思ったんだけど(笑)。

初 あとは戦士姿のマット・デイモンの写真があった。だからバトルがあるのは間違いない。

森 あえてのディベート劇かもよ。

初 こんな格好で口だけって尖りすぎでしょ。神話だから、神獣とか怪物とか見たいね。ノーランが描く神獣ってどんな感じになるんだろう。

森 あくまでリアリティがある存在にはなりそうだよね。2メートル半の大男とか、ギリいそうな感じの。

初 確かに、これまでの作品もCGじゃないって伝わってくるしね。

森 冥界下りで出てくる幽霊も、今や量子力学で説明ができたりするみたいだし。そういう理論的な裏付けがあるとか。あるいは足だけ見える、とか。これだけ言ってCGだったら……。

初 CGでも楽しみだけどね(笑)。あとは映画の冒頭。やっぱりオデュッセウスの冒険譚の語りからかな。

森 やっぱりディベート劇?

初 あくまで最初がね(笑)。

森 10年間も冒険してたら、記憶違いとかあると思うんだよね。

初 おお、ノーランっぽい。

森 語られる数々の武勇伝が、実は盛ってたことが明らかになる。魔女って言ってたけど、実際はただのおばあちゃんだったみたいな。で、いろんな嘘がバレて、恥ずかしくなって、すごいことやってやるっていう決意が皆殺しに繋がっていく……。

初 急にノーランっぽくない。

森 順序を変えるとかはありそうだよね。ラストの皆殺しから始めて、なぜそうなったのかを説明するとか。

初 『メメント』っぽいね。

森 最後に適当なこと言うけど。

初 なんで?

森 オデュッセイア、オデュッセイイ、オデュッセイウ……みたいに実は14つ子くらいいて、怪物にやられたらアの次はイが出てくる、っていう展開はどう?

初 ちょっと『プレステージ』っぽいけど、ネーミングどうにかなんない?

手に持っているのはパラレルワールドのマット・デイモンです。

ノーラン
ノーラン

パラレルワールドのクリストファー・ノーランです!

ノーラン
ノーラン


古代ギリシャ研究家が妄想!

プロフィール

どうしてクリストファー・ノーランが好きなんだろう? Vol.4

藤村シシン

ふじむら・ししん|古代ギリシャ・ギリシャ神話研究家。NHK教室で教鞭を執る他、歴史エンタメイベント「古代ギリシャナイト」を主宰。著書に『古代ギリシャのリアル』『秘密の古代ギリシャ』など。

『オデュッセイア』って、ハリウッド的な物語ではあるんですよね。帰宅してハッピー! というストーリーなので。でもノーランならきっと哲学的に作りますよね。例えば、この航海の物語は人生の暗喩とも言える。数々の罠スポットを潜り抜けた自分はどう変わったか、という視点から深い作品になるんじゃないかと。注目したいのは冥界下り。普通なら、暗い死者の世界にぼんやり亡霊が出てきて……と凡庸なシーンになるけど、ノーランならひと捻りあるんじゃないでしょうか。主人公のマット・デイモンがシャーリーズ・セロン演じる魔女・キルケーに翻弄されるのは確定ですね(笑)。原作で1年不倫してイチャコラしてますから。あと、キーになるのは、オデュッセウスが冒険譚を語り終えた後の女神アテナの言葉。「お前は本当に頭がいい男だな、お前ほど頭がいい男は私ですら騙されるかもしれない。じゃあオデュッセウス、これから本当の物語をはじめようではないか」と。それから求婚者皆殺しに進むのですが……これは、オデュッセウスの話が、思い出話だったとも、全部嘘だったとも取れる発言ですよね。このノーラン的モチーフがどう表現されるかが、作品全体の肝になるはずです。

『オデュッセイア』

ノーラン監督大好き芸人、ななまがりのお二人の動画はInstagramでチェック!