カルチャー
どうしてクリストファー・ノーランが好きなんだろう? Vol.3
知られざる武勇伝。
2025年11月22日
映画作りにおいては何事も徹底して臨むノーラン。尖ったエピソードがいろいろあって。天才と変人は紙一重というけれど、まさにこの言葉が当てはまると思う。
爆破するためにジャンボジェットを購入。リアリティの追求、そこまでやるか!?
本物志向のノーランなので、大抵のものは実際に作り、それを使って撮影している。ダークナイトトリロジーに登場するガジェットもノーラン宅のガレージでDIY。シリーズのなかでも見応えがある『ダークナイト』のカーチェイスシーンももちろんロケ。だだっ広い場所でリハを終えたあと、「じゃあ街中で撮ろう」と言い放ったノーランに、「CG使わないの?」と周りが確認したほどだった。『インターステラー』といえば、五次元空間をセットで作ったというのが有名だけど、実は主人公クーパーが営むとうもろこし畑もいちから耕したもの。栽培に適さない土地で作ったから、焼け畑のシーンでとうもろこしがよく燃えたとか。極め付きは『テネット』だろう。逆行シーンの多くを逆再生の演技を付けて撮影したほどのこだわりよう。さらに、空港に突っ込み、爆破させたジャンボジェットは、このためだけに買ったもの。CGよりも効率的、というが……そこまでやるか!?
『フォロウィング』から一貫してフィルム撮影にこだわり続けるノーラン。『オッペンハイマー』ではフィルムを特注し、史上初のIMAXモノクロ・アナログ撮影を実現。『オデュッセイア』では商業映画史上初となる全編IMAXフィルムに挑むなど、フィルム技術の最前線を切り拓いている。その映画撮影用フィルムを製造しているのは、今や世界でコダック社のみ。2012年に経営破綻の危機に陥った際には、ノーランをはじめとするフィルムラバーが立ち上がり、ハリウッドのスタジオとコダックとの間にフィルム供給契約を取り付けた。その結果、映画用フィルムの生産は継続され、ノーラン作品を支え続けている。
徹底した秘密主義で知られるノーラン。『インターステラー』なら「Flora’s Letter」といった具合に、仮タイトルで進めたり。『ダンケルク』では流出を防ぐため、脚本を読むことができたのは600人以上の関係者のうち約20人だけだったり。しかも持ち主の名前が透かし文字で印刷されていて、紛失すれば誰の脚本か突き止められるようにしたほどの徹底ぶり。その姿勢はビッグスタジオ相手でも変わらない。ワーナー・ブラザース向けの『バットマン ビギンズ』の試写会はなんとノーラン宅で。幹部を家まで呼び出したのだ。それは当時映画会社で脚本流出のトラブルがあったから。自身の作品を守る、フィルムメーカーの鑑ともいえよう。
ノーランは筋金入りの悲観主義者でもある。それゆえ、常に最悪の事態を想定して計画を立てる。とりわけロケの天候に関しては意識的。例えば、ノーランにとって雪が降るのを待つ時間は最悪だ。その点、氷河はいつでも存在しているし、たとえ雪が降ってなくても冬のシーンが撮影できる。そういえば、たしかにノーラン映画に氷河は出てきがち。『インセプション』にも雪山のシーンがあったし、『インソムニア』のオープニングで映る氷柱も印象的だ。ちなみに『インターステラー』の氷の惑星と『バットマン ビギンズ』序盤の訓練シーンは同じロケ地。アイスランドのスヴィナフェルスヨークトルという氷河なんだって。
エマ・トーマスをして、彼のいないノーラン映画はありえないと言わしめる、俳優マイケル・ケイン。『バットマン ビギンズ』から、俳優引退直前の『テネット』まで全ノーラン作品に出演した。出会いはケイン宅。金髪青眼の青年を配達員と間違えたというほど、突然の訪問だった。ノーランは『バットマン ビギンズ』の脚本をケインに押し付けると紅茶を飲みながら過ごし、彼が読み終えるときっちり脚本を持って帰宅。以来、長年の付き合いになったノーランを、ケインはこう評している。「大金を稼いでも、以前と同じ生活を送っている。いつでもロングコートのポケットに紅茶用ボトルを突っ込んで、一日中飲んでいるんだ」
参考文献:『ノーラン・ヴァリエーションズ クリストファー・ノーランの映画術』(トム・ショーン/著、山崎詩郎、神武団四郎/監修、富原まさ江/訳)、その他各作品パンフレット
関連記事
カルチャー
どうしてクリストファー・ノーランが好きなんだろう? Vol.1
ノーラン明解Q&A
2025年11月20日
カルチャー
どうしてクリストファー・ノーランが好きなんだろう? Vol.2
ノーランになるために観たい17枚。
2025年11月21日
カルチャー
どうしてクリストファー・ノーランが好きなんだろう? Vol.4
次作『オデュッセイア』妄想族。
2025年11月23日
カルチャー
ウェス・アンダーソンの好きな21世紀の映画。
WES ANDERSON
2025年11月16日
カルチャー
三宅唱のPOP-EYE CINEMA/『旅と日々』
第129回
2025年11月14日
カルチャー
壁に貼って待ちたい、2025→2026年の新作映画。【前編】
2025年11月18日
ピックアップ
PROMOTION
「Polo Originals」の世界へ、ようこそ。
2025年10月31日
PROMOTION
秋の旅も冬の旅も、やっぱりAirbnb。
Airbnb
2025年11月10日
PROMOTION
職人技が光る大洋印刷とプロのバッグ。
Taiyo Printing
2025年11月8日
PROMOTION
〈バレンシアガ〉Across and Down
Balenciaga
2025年11月10日
PROMOTION
「Polo Originals」とは何か?
それは〈ポロ ラルフ ローレン〉の世界観の名前。
2025年10月21日
PROMOTION
富士6時間耐久レースと〈ロレックス〉。
ROLEX
2025年11月11日
PROMOTION
Polo Originals × POPEYE LOOK COLLECTION
2025年10月21日
PROMOTION
〈バルミューダ〉のギフト、ふたりのホリデー。この冬に贈るもの、決めた?
BALMUDA
2025年11月21日
PROMOTION
11月、心斎橋パルコが5周年を迎えるってよ。
PARCO
2025年11月10日
PROMOTION
クリエイターたちの、福祉に関わる仕事。
介護の仕事のことをちゃんと知ってみないか?
2025年10月23日
PROMOTION
NORMEL TIMES初のショートフィルム『遠い人』の玉田真也監督にインタビュー。
NORMEL TIMES
2025年10月30日
PROMOTION
お邪魔します、「Polo Originals & Friends」。
W・デイヴィッド・マークスさんと見つけた、今の時代の「自由」なトラッド。
2025年10月21日
PROMOTION
心斎橋にオープンした〈リンドバーグ〉で、 快適かつ美しいアイウェアを探しに行こう。
2025年11月5日
PROMOTION
心斎橋PARCOでパルコの広告を一気に振り返ろう。
「パルコを広告する」1969-2025 PARCO広告展
2025年11月13日
PROMOTION
〈ACUO〉で前向きにリセットしよう。
Refresh and Go with ACUO
2025年10月29日
PROMOTION
〈THE NORTH FACE〉僕はこの冬は〝ミドラー〟を選ぶことにした。
THE NORTH FACE
2025年10月24日
PROMOTION
新しい〈シトロエン〉C3に乗って、手土産の調達へ。
レトロでポップな顔をした、毎日の相棒。
2025年11月11日