カルチャー

【#2】Island Talk

執筆: 山縣良和

2023年3月22日

photo & text: Yoshikazu Yamagata
edit: Yukako Kazuno

2019年11月23日、僕と磯山くんは五島列島の視察の帰り、長崎行きのフェリーの船中で大勢のシスターに囲まれながら船に揺られていました。どうやら次の日はローマ法王が遠くイタリア・ローマより遥々長崎にやってくる日だったのです。

長崎港に到着して、僕はフェリーから降り立ち大勢のシスターの列をなして歩く姿に心が大きく揺さぶられました。

「7代耐え忍べば再びローマから司祭がやってくる」

江戸時代の初期に幕府に捕らえられて殉教したバスチャンという伝道士の予言を信じ、潜伏キリシタンは、長期間にわたる弾圧に耐え、神社の氏子として登録しながら信仰を続けたと言います。

地元の資料を見ていると、運動会らしき催しがシュールです。もしかしたらこれくらいの表現の許容範囲があった方が良いのかも? と考えさせられました。

長らくほぼ口伝のみで250年以上に渡り、代々伝えられた信仰は秘密裏に行われました。例えば「丸や」はマリア、「出臼」はゼウス、「肥料」はキリスト(ポルトガル語でフィリョは息子の意らしいです)のように。

ようやく明治維新後に禁教令が解け、長崎や五島列島では信者たちが貧しいながらも協力し合い、多くの教会が建てられました。それらの教会は今も各地に現存しています。

そして1945年8月9日、長崎に原爆が落ちました。爆弾は浦上地区中央の上空で爆発し、アジア最大規模のキリスト教会のひとつであった浦上天主堂も破壊されてしまいました。

おそらく僕が港で見たシスターたちの多くは、潜伏キリシタンの末裔の方々なのではと思います。ローマからやってきたローマ教皇をどのような気持ちで迎えるのか、そのことを想像すると、どうしようもなく胸が熱くなりました。

僕は島に建てられた多くの教会を見学させていただきましたが、特に鉄川与助という建築士が設計した教会を見ると、ヨーロッパで見る教会では味わった事のない何とも言えない感覚になります。というのも構造が木造であったり、竹を使用したものであったり、パッと目、西欧建築風に見えても近づくとヨーロッパのそれとは身体の感じ方が違う。それらの佇まいが何とも愛くるしいのです。

鉄川与助が設計した海辺にある《堂崎教会》。

小値賀島に隣接する野崎島にも鉄川与助の初期の教会建築《野首教会》があります。野崎島は現在はほぼ無人島となっており、野鹿が多く生息しています。

野崎島に凛と佇む《野首教会》。
廃墟となっている集落地を歩いていると野鹿に遭遇。

ほぼ無人島というのも、無人島には船の定期便を送ることができないため、1人住民票を置くことで、定期便が停泊出来るようになっています。その1人が前田さんです。《野首教会》の管理を行ったり、島の案内人でもあり、島の主のような存在です。来訪者から通称“塾長”と呼ばれ親しまれています。

遠くを見つめる塾長。
トレードマークの塾長サンダル。

最初は怖い方なのかなと思ったりもしましたが、実際はとっても優しい方です。何度か塾長が運転する軽トラの荷台に乗って島を案内してもらいました。崖っぷちを颯爽と走る軽トラの荷台は何ともスリリングです。

宿泊が出来る自然学塾村の入口。鹿の骨で作られたオブジェ。
塾長の部屋は趣味が満載。
塾長が使用している部屋。よく見ると長渕剛とのツーショット写真が。

僕はこの島に何度か来て、ぜひ一緒に来島したいと思う方がいました。それは写真家の田附勝さんです。田附さんがこの島々の歴史に向き合った時、何が浮き上がってくるのだろう。幾度となく想像していましたが、ようやくタイミングが整い実現することになったのです。

プロフィール

山縣良和

やまがた・よしかず | 1980年、鳥取生まれ。〈writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)〉デザイナー・「coconogacco」代表。2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学ファッションデザイン学科ウィメンズウェアコースを卒業。2007年4月自身のブランド〈writtenafterwards〉を設立。2015年、日本人として初めて LVMH Prizeにノミネート。デザイナーとしての活動のかたわら、ファッション表現の実験と学びの場として「coconogacco」を主宰。2019年にはThe Business of Fashion が主催するBOF 500に選出。2021年第39回毎日ファッション大賞・鯨岡阿美子賞を受賞。