TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】手順のない折り紙

執筆:エーブルソン友理

2025年11月19日

 “正しさ”を手放して、自分の感覚だけをたよりに紙を折ってみたら何ができるか。そんな考えから思いついたのが、「Unguided Origami(手順のないオリガミ)」です。


 『Atelier Muji Ginza』で開催中の「Paper Trailペーパートレイル」展の設営が完成した直後に来場者がふらりと現れ、キャプションを読んで、一枚の折り紙を手に取りました。
彼は自由に紙を折り、そして一部を破り(伝統的な折り紙では“破る”ことは御法度です)、それを壁に貼って去っていきました。

 それ以来、壁面は、来場者たちの手による自由で美しい「導かれない」作品でいっぱいになっていきました。

 それぞれの手から紙へ、そして紙から生まれる形へ。

 山折りと谷折りを間違えないようにということにしばられず、思うままに手を動かすことで、何かが見えてきます。

 私たちにとって「紙」は単なる素材ではなく、アイデアを形にしていくときのなくてはならない存在です。何気ないメモ、図面の端に描いた線、折り目のついた封筒――それらが積み重なって、気づいたら「道(トレイル)」のようなものができていました。

“Everything Is a prototype for the future. すべてのものは、未来のためのプロトタイプ”

 展示の空間に並ぶさまざまな紙のプロトタイプやドローイング、それらの一つひとつが、思考の痕跡のように展示されています。 

 完成形ではなく、途中段階のプロトタイプ。その不確かさのなかにこそ、次のアイデアが眠っている気がします。

プロフィール

エーブルソン友理

エーブルソン・ユリ|1971年、東京都生まれ。学生の頃にヨーロッパやアメリカを転々とし、カリフォルニアのパサデナでマイク・エーブルソンと出会い、2000年にNYブルックリンにて〈ポスタルコ〉を創業。以来、自社のブランドコミュニケーションを中心に、グラフィックデザインの仕事をしている。2児の母でもある。好きな映画は『freaks』 (1932年) 、好きな漫画は『魔太郎がくる!!』、著書に『霧の中の展望台』『水たまりの中を泳ぐ』がある。現在、『Atelier Muji Ginza』にて展示「PAPER TRAIL – Everything Is a Prototype for the Future」(〜11/24まで)を開催中。

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