カルチャー

日本初70mm映画60周年の年に。

国立映画アーカイブ 研究員4名によるリレー形式コラム(担当・冨田美香)#4

2022年1月26日

text: Mika Tomita

当館長瀬記念ホール OZUの映写機。ほぼ連日35mmフィルムを上映している働
き者だが、70mmフィルムも上映可能な底力を持っている。

 残念なことにほとんど話題になっていないので、あえてタイトルにして、声を大にして言おう。実は今年は、日本初の70mm大型映画60周年という記念すべき年である。その作品は、『釈迦』(1961年、大映、三隈研次)。通常の35mm幅のフィルムに比べて倍以上の大きさがある70mm映画は、超巨大なスクリーンに投影しても映像が極めて美しく、さらにモノラルが主流の当時の映画のなかで、ステレオ音響を堪能できる、とてもゴージャスな映画なのである。『釈迦』も、日本映画初の6本トラック立体音響作品であり、テクニカラーの艶やかな色彩に彩られた、技術的に初挑戦づくしの作品だったのだが、残念なことに、今では、というよりおそらくもう50年以上もの間、モノラル音声で画面の縦横比も変更された35mmフィルム版や、ビデオやディスクでしか見ることができない哀れな状態になっている。

『釈迦』パンフレット(当館所蔵)。

 映画を、その作品本来の姿で今も100年後も同じように鑑賞できるよう保存する、というフィルムアーカイブのポリシーとともに、映画とその文化の魅力を多くの人たちに広く伝えることが私のいる国立映画アーカイブの教育・発信室の仕事なのだが、それ以前に、自分自身の欲求としてとにかく、大映京都撮影所の職人技術者たちと三隈研次が作りあげた『釈迦』本来の70mm映像と立体音響の表現に、身をゆだねてみたいのだ。そんな夢想を胸に、まずは日本で出来なくなってしまった70mm上映を復活させたいと、現存する映写機などを調べ始めてかれこれ9年ほど経った。この間、70mm上映の復活については、『デルス・ウザーラ』(1975年、黒澤明)と『2001年宇宙の旅』(1968年、スタンリー・キューブリック)で、国立映画アーカイブのホールで可能となったが、最大の山はやはり『釈迦』である。

 この山がでかい。よしんば、「一緒に夢をみましょう」と奇特な方々からの寄付金で復元費用が集まって70mm復元をできたとしても、上映できるのは国内に当館の310席のホール1つしかない。ならば、海外の70mm映画祭に出す、そうなると英語字幕版まで必要になる(!)、ならばスロヴァキアの70mm映画祭のように野外上映できないか、野外上映が可能になれば、スクリーンもバーンと大きくできるかも‥、そのスクリーンを湾曲にできたら、「2001年」も本来の上映ができるぞ、これは見たいぞ!と、どんどん夢想が逞しくなっていく‥。コロナ禍、そんなことを考えながら夜道を家路に向かう日々。「仕事しろ」と言われそうですが、これも仕事であり、この夢想が原動力なんです。

現在閉館の危機に瀕しているハリウッドのシネラマ・ドームの湾曲スクリーン(2019年10月1日筆者撮影)。

プロフィール

国立映画アーカイブ

映画の保存・研究・公開を行う国内唯一の国立映画機関。東京の京橋本館では、上映会・展覧会をご鑑賞いただけるほか、映画専門の図書室もご利用いただけます。相模原分館では、映画フィルム等を保存しています。学芸課には映画室、上映室、展示・資料室、教育・発信室があり、第4回目のコラムを担当したのは、教育・発信室の冨田美香。

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