トリップ
あらためて遊歩大全 #9 / バックパッキング入門編
2021年9月24日
photo: Hiromichi Uchida
illustration: Hisashi Okawa, Naoki Shoji
edit: Kyosuke Nitta
ムック本『僕たちはこんな本を読んできた』好評発売中!
『遊歩大全』以降、日本の山歩きの思想と道具はどう変わったのか?
まずは、“ブツとシステム”の登場に沸いた’70年代を知ろう。

著者:芦沢一洋
イラスト:小林泰彦
写真:近藤辰郎
版元:山と溪谷社
伝説のバイブルは兄弟?
『遊歩大全』が’78年に発行され、日本でもバックパッキングブームを加速させたわけだが、この新しい潮流を最初に紹介したのは、訳者の芦沢一洋さんが’76年に書き上げた『バックパッキング入門』に他ならない。時系列を辿ると、’50年代から米西海岸で長距離徒歩旅行に明け暮れていたコリン・フレッチャーが’68年に『The Complete Walker』を上梓し、’74年に改訂版をリリース。当時雑誌のアートディレクターとして活躍していた芦沢さんは、渓流釣りが趣味で道具への愛情が人一倍強かったこともあり、この本に心酔。すぐに翻訳しようと決意する。だが、諸事情により出版に時間がかかり、我慢も限界に……。よし、ガイドとなる入門書を先に出そうという経緯で先行発売が決まったというわけだ。そのため、2冊とも提案の骨子は限りなく似ていて、冒頭では山歩きの精神論、そして、第2章では用具や使い方を説明し、巻末にも同じくチェックリストを丁寧に掲載。ただ、“日本人向け”というアプローチが決定的に違う。コリンは実体験をベースにしたギア考察を軸に、文章がメインでどちらかというとエッセイに近いのに対し、芦沢さんはアイテムの素材や質感まではっきりわかる写真を全編にわたってレイアウト。しかも、マニアックにディテールや用具の使い方を解説し、物欲を煽るページに仕上げているのだ。
そもそも’70年代中頃の東京といえば、ムック本『Made in U.S.A. Catalog 1975』に端を発したアメリカンギア全盛期。アメ横は若者でごった返し、上陸して間もない〈リーバイスⓇ〉501®をはいて街を闊歩するのが最高のステータスだった時代だ。そういう機運を見据えてバックパッキングを“道具”という切り口で初めて紹介すると、入門者は爆発的に増大。満を持して登場した『遊歩大全』によって西海岸でのリアルな荒野体験記が補足され、ムーブメントの波紋は2段階で大きく広がっていった。


A4

Slim Line

Svea 123

Blucher Moc

Mountain Dome

イラストレーター・小林泰彦さんに聞く、制作のきっかけ、ウラ話、伝えたかったこと。
「雑誌『平凡パンチ』で初めてサンフランシスコ取材に行った ’67年。街中に大きな荷物を背負ってヒッチハイクして、自らをヒッピーと呼ぶ、ヒゲ面で素足の若者がたくさんいたんですよ。当時は米大使館から入手したわずかな情報しかなかったので、“なんだこのモダンなこじきは!”と思いましたね(笑)。翌々年のNY取材でも、ウッドストックフェスティバルが終わって街に押し寄せてきた連中が似た姿で、荷物を背負って歩くことを“バックパッキング”って言っていたんです。一般名詞としか思わなかったけど、ある日たまたま読んだムック本で、荷を背負うこと自体がムーブメントであると知りました。
その頃『メンズクラブ』でページの割り付けを行うレイアウトマンをしていたのがあーさん(芦沢さんの愛称)ですね。よく芦沢フィッシング教室が開かれていて、みんなから先生って慕われていました。『バックパッキング入門』の挿絵も、普段のやりとりと同じように頼まれただけなので、完成するまでどんな本なのかさっぱり知らなかったんですよ。なので、初めて見たときは驚きましたね。必要な用具を買い揃え、アルミフレームパックに機能的に詰め込むっていう、“ブツ”を言語にしたシステムとスタイルの提案は、一言でいうなら“アメリカの資本主義”。西部を開拓し、蒸気機関車や電球などの開発でのし上がったブツ大国の発想で、根底に欧州のアルピニズムがある日本人とは思考回路がまったく違うんです。この提案は誰も思いつかなかった。趣味の釣りで道具へのこだわりが強かったあーさんだからこそ気付けたバックパッキングの捉え方だと思います」
プロフィール
小林泰彦
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