カルチャー

【#2】キングペンギン

2021年7月17日

 旭山動物園では4種類のペンギンを飼育していますが、その中にキングペンギンがいます。

すっかり有名になった積雪期限定の「ペンギンの散歩」の主役ですね。動物園では春から夏にかけてが繁殖期になります。基本ペアの相手は毎年リセットされます。卵の数は1卵で、巣は作らずに足の上に卵をおいてお腹の皮膚で卵を覆い立ったまま抱卵します。卵を抱いたままヨチヨチと移動もします。抱卵も給餌もすべてオスメス共同で行います。飼育下でさえも、どちらか1羽だけでは体力的に卵を孵し雛を育てることはできません。

 さて、まずはペアの形成です。鳥類哺乳類全般に相手を選ぶのはメスです。一見オスが選択権を持っているように見えるライオンやチンパンジーなどでもメスを巡りオス同士を争わせ、結果としてメスがより強く逞しいオスを選択していると言うことになります。次世代を生めるのはメスにしかできませんから、メスの方が生きることにしたたかだと感じます。

 キングペンギンの場合、繁殖期に入りペアの相手探しが始まると大きな集団となっていきます。動物園では毎年同じ顔ぶれの十数羽と言うことになります。何を基準にオスを選んでいるのかはいまいち定かではないのですが、毎年同じオスが複数のメスから選ばれるという現象が起きます。仮にそのオスをAとすると、まずAとメスBがペアになり交尾をし産卵します。数日は抱卵の交代もするのですが、Aには別のメスCが近寄ってきます。すると悲しいかなAは次のメスCとペアになってしまいBは単独で卵を温めることになってしまいます。時にはメスが産卵する前に別のメスに…とにかくAはメスたちにとってとても魅力があるのです。先にも書いたとおり単独で抱卵を続けさせることはできません。仕方なく卵を孵卵器に入れ雛が孵ると飼育係りが親代わりとなり雛を育てることになります。キングペンギンの雛は親から離れるまで約9ヶ月もかかります。人が育てた個体は人に関心を持つようになり、将来繁殖に参加できなくなる可能性が高くなってしまいます。

 さて、集団で生活をする上で闘争を避ける仕組みとしてはとても納得できるのですが、メスに選ばれないオス同士がペアになることがあります。いつまで経っても卵は現れないので恋の季節が終わる頃ペアも解消していきます。実に理にかなっています。そこでオス同士のペアに一肌脱いでもらうことを考えました。オス同士のペアに擬卵(偽物の卵)を抱かせるのです。卵を観るとどちらかが嘴を使い自分の足の上に卵をのせます。多分どちらも相手が産んだと思うのでしょう。本物のペアになるのです。メスBの卵は孵卵器に入れ、雛が孵り、オスペアが抱いている擬卵と雛を取り替えます。するとオスペアは我が子が孵った!と雛を育てます。

 旭山動物園では過去に数例この方法で、自然育雛に成功しています。オスペアそれぞれはオスとして繁殖に参加したことになり、この経験は将来めでたくメスとペアになれたときに役立ちます。鳥類はメスしか卵を生めませんが、卵を抱き雛を育てることはオスもメスも同じようにできます。ここが哺乳類との決定的に違うところです。ヒトの場合は人工ミルクがあればオスでもできる。ヒトはどんな進化をしていくのでしょう?

プロフィール

旭山動物園

昭和42年、日本最北の動物園として開園。市外や外国からの観光客も合わせて毎年140万人前後の入園者数を誇る。国内動物園で初めて繁殖に成功した動物園に送られる「繁殖賞」を、ホッキョクグマをはじめ、20回受賞している。

公式instagram公式twitterはこちら。旭山動物園の動物を24時間ライブ視聴できる動画配信サービスも提供中。