カルチャー

【#3】クバの少女のオブジェに出会う

2022年8月2日

 アトリエから徒歩10分。クバの葉が石垣から道路に飛び出す屋敷、一階の奥の明るい部屋にて。

 昔々、鬼退治をした神様が鬼の頭をクバの葉に包んで天へ放ったことから、それ以来クバが自生する島に鬼は降りれなくなったんだ。だけどね、クバが枯れるのを鬼は天から今か今かと待っているのー。

 クバのある島に鬼は来ないー。

 そんな民話を淡々と話し、湧き上がるエネルギーからクバの森を作り、自ら育てたクバを使って作品を作り続ける女性(少女)がいる。Ogawa Kyoko。彼女の作品は、クバの生き物としての力強さを残したまま、柔らかく絡み合わせ、光が入ると有機的な影を地面に落とし、不思議な世界に誘惑する。

Ogawa Kyoko クバの葉
Ogawa Kyoko アトリエにて。

 貴重なクバの新芽だけを利用し、丁寧に乾燥させ、編み込み、緻密な面を作り、それらを多面体で構成する作品。球体や立方体に光を取り入れるランプシリーズが代表的だが、キャンバスにコラージュした平面作品や巨大な龍や大蛇のモビール、珊瑚をクバで巻いた「きづき」シリーズなど、スタイルに囚われることなく自由自在に表現するー。

 クバの葉(ビロウの葉)は、古来から神事に欠かせないものとして、御嶽(うたき)で使う香炉や神女の座る座布団、お供えするお皿などに使われた。また民具として、扇子や釣瓶や笠、屋根葺材や壁材にも使われていた。ハレの日から普段の日常生活まで、暮らしに寄り添う欠かせない植物だった。

 現代では祭祀行事の改変や消滅、道具においてはプラスチックや金属といった安価で丈夫な代替品があるためクバの出番は減少してしまっているのが現状で、使われなくなると自生するクバもほとんど見ない。進化にあっぱれとなる反面、クバは枯れていないかー、やがて鬼が来るーという危機感(使命感?)を持った少女が彼女だった。

 民話や神話にみる習俗的信仰が彼女自身にどれほどまで影響しているのかはわからない。けれど、神木とされるクバが開発によって減少していることは事実で、伝承されて民話によって危惧されたクバの枯れる光景がすでにある。この現状と向き合い、作品を通して自然と人間との調和を図ろうと挑戦する彼女の作品、彼女の姿。遊びに行くと必ず紅茶を出してくれて、作業中のクバが乗った大きなテーブルを囲んでクバ(島)の未来を語る。誰に対しても正直に、まっすぐで、力強く。最後には決まってー「そんなことを夢見る少女よ」と笑う、ユニークな、人。作品も、本人も、おそらくどんな鬼をも魅了する。

 『一人の少女がクバの森を作り始めたー』と、これから語られていく民話にはこう続いていきそうだ。鬼退治のために、今日も少女はクバの畑に水をやる。

 ところで鬼の正体ってなんだろうー。