カルチャー

私的にいいとこ、詩的なところ。Vol.4/大山街道 溝口駅入口交差点

2022年7月14日

photo: Keisuke Fukamizu
text: Ryusuke Kurokawa
edit: Toromatsu

耳をすますと
二十万の盛んな足音が聞こえるが
かつて賑わったこの道を
いちいち振り返るものは見当たらない
再開発の事情か
石碑を近場の公園に独りにしているが
国木田独歩がここで何を見たか
何を生み落としたかは
コンクリの下に眠る土と
吹かれていった喧騒だけが知っている

老けた見た目のやつが
コンビニで酒を買う役割をさせられていた頃
はじめて通ったバーがあった
時間はふんだんにあるが金はまるでなかった輩は
一杯を頼んではそれを砂時計のようにして
その時間内に行き交う夜景をメモしていた
一八九八年 
同じ場所その位置に
詩人が宿泊していたことも知らずに

忘れえぬ人々を
この路はわすれずにいられるか

インフォメーション

大山街道 溝口駅入口交差点

東急電鉄・溝の口駅から北に徒歩5分、現在の国道246号に沿う大山街道にある片道一車線の小さな交差点。東京・赤坂と神奈川県・大山を結ぶ道として、古くは多くの人で賑わう幹線道路として使われていた。

〇神奈川県川崎市高津区溝口2丁目16