『ソングの哲学』を読む。

ボブ・ディラン (著) 、佐藤良明(訳)
つい先日、とんでもなく凄まじい日本公演を終えたばかりの“生ける伝説“ボブ・ディランが、『自伝』以来18年ぶりの著書を発表。スティーヴン・フォスターからエルヴィス・コステロまで66人のミュージシャンの楽曲の解説を通して、ポップソングの真髄に迫る。内容も表紙もヤバい! 岩波書店/¥4,180
ラテンアメリカの民衆芸術 @国立民族学博物館 特別展示館

北はメキシコ、南はアルゼンチンまで。「ラテンアメリカの民衆芸術」では、豊かな先住民文化や、流入してきたキリスト教文化、そしてそれらを受け入れ融合し、発展してきた独自の芸術様式を一望できる。その造形や配色のセンスに「かわいい!」という感想で消費してしまいそうになるが、そこに秘められた搾取構造や暴力への批判的な視線・精神性を映し出す展示にはハッとさせられるものがある。生活に身近なアートだからこそ、暮らしの問題そのものを映し出す鏡として芸術が機能している。そう、ここにあるのはあくまで「Arte Popular(アルテ・ポプラル)」と彼らが呼ぶ世界そのものなのだ!
ダムタイプ|2022: remap@アーティゾン美術館

1984年に京都市立芸術大学の学生を中心に結成され、日本のアート・コレクティブの先駆け的存在であるダムタイプ。そのメンバーは流動的で、本展では新たなメンバーとして坂本龍一を迎え、第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展・日本館展示で発表されたダムタイプの新作《2022》を再構築。《2022: remap》として日本初公開する。コロナ禍の影響で無料配信されたことも話題だった代表作《S/N》(1994)では、シグナル(S)とノイズ(N)の関係性と社会が直面する諸問題の表現が切実に描き出されていたように、身体とテクノロジーの関係を独自な方法で舞台作品やインスタレーションに織り込んできた彼女/彼らであるが、音を聴くことを探求し、「アウターナショナル」として世界に接続してきた坂本龍一がここに(コラボレーションやフィーチャリングではなく)”加わる”ことの意味を考えながら鑑賞したい。
PLATINUM PRINT —肖像の回廊@清里フォトアートミュージアム

カメラフォルダにあるものといえば昨日食べたご飯や友達とのブレブレのセルフィー、いつのものかわからないスクリーンショット。写真が身近になってからというもの、撮影する行為をかなりぞんざいにしている気がしてならない。本展では、写真が誕生した1839年よりも前から実験が行われてきた古典技法「プラチナ・プリント」の作品が並ぶ。優美な色調・繊細な光のグラデーションが美しく、写真を味わう楽しさを今に伝えてくれる! プラチナ・プリントは、いったん現像すると経年による変化が起きないという。丁寧に作り上げられ、現像時から変わらぬ姿を収めた写真作品を見ると、作品に封じ込められた光や時間、当時の被写体と撮影者の関係性まで浮かび上がってくるような気がする。それは哲学者ロラン・バルトが写真の本質を「それは、かつて、あった」ということを証明するものであると語ったように(こちらの連載もどうぞ)、ここには「かつて、あった」100年以上も前の人々との出会いが待っている!
『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』D・A・ペネベイカー、リチャード・リーコック(監) を観る。

60年代初頭、ジャン=リュック・ゴダールとドキュメンタリストのD・A・ペネベイカーが、アメリカを舞台にした作品を共同制作する企画が持ち上がる。一度は頓挫したこの企画が復活したのは1968年のこと。ブラックパンサー党のエルドリッジ・クレヴァーにインタビューしたり、当時の政治的な空気感が存分に伝わる場面をフィルムに収めたものの、ゴダールは完成せずに再び放棄してしまう。本作は残されたフィルムを用いて、ペネベイカーらが完成させたもの。ゴダールの演出ぶりがわかるシーンを始め貴重なシーンがてんこ盛りなのだが、一番驚いたのはゴダールの英語の達者さ。いつかのカンヌ映画祭の記者会見で、英語で話す記者に「美しい母国語があるのに英語を使わないでください」と苦言を呈していた彼だったが……本当に食えないお方だ。4月22日より公開。