『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート(監)を観る。

アメリカでコインランドリーを営む中国移民の中年女性が、一方では確定申告に悩み、他方では全宇宙を滅ぼさんとする巨悪にマルチバース間移動で手に入れたパワーでもって立ち向かう……と書いたところで何が何やらと戸惑うだろう。しかし、実際そうなんだからしょうがない。鑑賞後にこの監督インタビューを読めば謎の大部分は氷解するはずだが、監督たちのお尻の穴ジョークへのこだわりだけは謎のまま。3月3日(金)より公開。
「アルベルト・ジャコメッティ」展 @エスパス ルイ・ヴィトン大阪

© Succession Alberto Giacometti/Adagp, Paris 2022.
© Fondation Louis Vuitton/Marc Domage
Fondation Louis Vuitton, Paris
アルベルト・ジャコメッティ(1901〜1966)は、彫刻家ながら過去にはスイス・フランの紙幣にも描かれ、もはや”偉人”といっても差し支えない存在だ。ヒョロっとした人体の造形が特徴的で、実際に鑑賞すると、人間そのものに向き合ったストイックな表現に圧倒されること間違いなし。今にも折れそうなほど細い”線”から、生々しく強い生命力を感じられるのが不思議だ。しかし、ジャコメッティ本人はあくまで自分が「見えた」世界を再現しているんだとか。その姿勢は実存主義で有名な哲学者・ジャン=ポール・サルトル(1905〜1980)も絶賛するところだ。ともかく、まずは会場でじっくり見てほしい。極度に削ぎ落とされたその彫刻からは、作品を形容する言葉すらも邪魔になるほどのパワーが放たれているのだ!
インフォメーション
「アルベルト・ジャコメッティ」展
会場:エスパス ルイ・ヴィトン大阪
会期:2023年2月23日(木)~2023年6月25日(日)
時間:12:00〜20:00
休み:ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋に準ずる。
料金:無料
『うんこ文学 ――漏らす悲しみを知っている人のための17の物語』を読む。

頭木弘樹 (編)
うんこをテーマにした文芸作品を集めたアンソロジーなんてけしからん! と思いつつページを繰ってみれば、尾辻克彦や山田風太郎がお漏らしの思い出を綴った痛快エッセイはあるは、筒井康隆大先生のコレラをめぐる不謹慎小説はあるはで、うんこはクリエイターを触発する重要なテーマなんだなと快便をかました後のような気分で読み終えることに。あー、すっきりした。¥880/筑摩書房
「コレクション解体新書Ⅱ 1970年代以降の作品を中心に」@目黒区美術館

昨年11月に開館35周年を迎えた目黒区美術館による所蔵作品展。同館が開館した1987年の誕生前後の時代にフォーカスし、紹介している。所蔵作品だからとあなどるなかれ。宇佐美圭司、川俣正、高松次郎、村上友晴といった日本のアートシーンを語る上では欠かせない有名どころがずらり。展覧会タイトルの「解体新書」は、日本史テストの頻出ワード・杉田玄白による医学書のことだが、まさに目黒区美術館の”神経”や”動脈”を見せてくれているといってもいい。博物館法によると博物館(美術館)とは(ざっくりいうと)、資料の収集・保管、教育、研究、普及を目的とした機関であるそう。なにを保存し、研究し、人々に見せているのかといった”身体の内側”を知ることは、施設としての美術館の魅力を知ることでもあるはずだ!