
カルチャー
不惑の頃には。Vol.2
PIGU/TENBOX Founder
2022年8月20日
photo: Ding Ding
text & edit: Tamio Ogasawara
「四十にして惑わず」。
かの孔子の言葉がまとめられた『論語』によると、40歳になる頃には迷わずに自分の道を進めるようになるといい、その40歳の年を「不惑」という。
確かに、まわりの40代って活躍している人が多い印象があるけど、むしろ、不惑の迷いや、不惑ならではの不安というのもありそうな気がしなくもない。二十歳で大人の仲間入りをしてから20年。不惑の生き方が気になる今日この頃。
今回、話を聞いたのは、〈TENBOX〉のPIGUさん。思い立ったら即行動の、自由が似合う44歳。
聞いてまず驚いたのは、服作りをしていたら、普通にデスクワークってあるものだと思っていたのだが、そういう仕事はほとんどなくて、移動中に全部iPhoneでやっていると言っていたこと。行きたいところへ行き、やりたいことをやり、作りたいものを作る。これがPIGUさんの手掛ける〈TENBOX〉。一般的なブランドとは根本的に違うし、近しい存在もたぶんない。そして、本人は自らのことをデザイナーともディレクターとも思っていない。作っているのは服だけど、なんだか服でもない。
「〈TENBOX〉というチームを始めたのは2017年1月6日です。直前の12月までは『ビームス』で働いていました。〈TENBOX〉も5年以上たち、当初のストリートぽかった頃と比べたら、今はノリは変わってきたと思います。昨年は、180日は海外に行っていましたし、デザインも机に座って考えたりすることはしないですしね。今日のこの場所も、5年前くらいから借りているのですが、海外で作ってきたものや買ってきたものを売ったり、商談したり、人が遊びに来たりするくらいで、ここでデスクワークすることもないんです。基本はずっと車で移動して、携帯でやり取りして、どこかに行っていますね。そういえば、2年前には、〈TENBOX〉を取り扱ってくれているお店を回りつつ、サーフボードとたくさんの服を持って、日本一周もしてきました(笑)」


現在のPIGUさんの日常は旅なのだろう。その旅をしていく上で機能的なもの、たとえば、ワークやミリタリーをベースにして〈TENBOX〉は必然的に作られている。でも、その服は、いわゆるアウトドアブランドやラグジュアリーブランドがよくテーマにするような、旅に適した服というだけでなく、旅先の土着のカルチャーの匂いまでがムンムンに香る。
「〈TENBOX〉の存在意義は、世界のローカルカルチャーを日本の人に発信するというのがあるのかなと思っています。先日もLAに行っていたのですが、ドジャースのゲームを観に行けば、ローカルたちの観戦スタイルは格好いいし、スタジアムまわりで売っているブートレグのグッズも面白い。その気分が出るようなMLBもののデッドストックの生地を見つけたら、それらでシャツを作ってみたり。以前はブートレグをモチーフにしてTシャツを作ったりもしましたね。今回の旅では珍しいフロリダの囚人服やキルティングをたくさん買えたので、今生産にまわして服を作っているところです。LA前の渡航では、メキシコに2度訪れ、計3、4ヶ月ほど滞在し、1万キロくらい車で走って、様々な町や村に行きました。サンディエゴの国境の町くらいにしか行ったことがなかったのですが、これだけまわると、ディープな地元のカルチャーにも触れることができますね。土地土地のローカルカルチャーを感じながら、主に探すのは、服作りのための生地。メキシコはポリエステルのバンダナが主流で、現地の人は頭に巻いたり、カートの目隠しに使ったりと、何にでも使っている生地なのですが、なかでも、アメリカでも少ない黒いバンダナの生地を見つけて、それで〈TENBOX〉のシグネチャーのシャツであるポケットがたくさん付いたドラッグディーラーシャツを作りました。生地自体は良いとも悪いともいえない素材なのですが、そのプリントのものはそこにしかない。車で1万キロ走っても、その黒い生地のプリントはそこにしかなかったんです。まわりにまわった最後の最後、53店舗目にこの黒のバンダナの生地があった。オアハカのラグの村に行けば、やっぱりいろんな家の軒先にラグが掛かっていて、それを見ているだけで、何か作りたくなるんです。なので、すぐに直接お願いして、その場でデザインを渡して作ってもらう。その際のデザインに迷いはなしです(笑)。バハカリフォルニアに行けば、サーフィンもしますが、バハフーディーを現地の工房で作ってもらったりもします。通常XLくらいまでサイズがあってもバハフーディーって小さいし縮むので、大きめのものを作ってもらう。バハフーディーに使われるドラックラグの面白いカラーを見つけたら、それでハットも作ってみたり。ラグもバハフーディーも、滞在が長いので、作り手さんたちも滞在中に仕上げてくれることが多く、またそこに取りに伺ったりして直接持ち帰ったりしていますね。あと、日本人はほぼ行かないミチョアカンに行けば、伝統工芸のシュロ(ヤシ)で作られた魚の形のバッグを買ってきたりもしました。とてもかわいいバッグなんですよ」




自分たちの足で探して、出合ったと興奮を、まるごと服にして届ける。〈TENBOX〉のものづくりの真骨頂だろう。それは、毎年のように通っていたというアメリカの影響も大きい。
「23歳で初めてアメリカに行き、25歳くらいからLAに通うようになったのですが、友達ができたのがようやく6年前です(笑)。インスタで繋がっていたサイケデリック・ロックバンドALLAH-LASの元マネージャーで〈CELINE〉のデザイナーをやっているジェフに、ジェフから紹介してもらったシルバーレイクで『VIRGIL NORMAL』というショップをやっているチャーリーとシャーリーの夫婦。ジェフは僕のインスタを見て、いつも海外にいると思っていたみたいなんですけど、LAにいたある日、たまたま忘れ物を取りにモーテルに戻っていたら、『PIGU!』と呼ばれて、振り返ったらジェフがいたんです。彼とはそれからの仲なんですよね。これだけずっと海外にいる雰囲気で、すごい英語も喋れるんだろうと思われるかもしれませんが、僕はほとんど英語が喋れないんです。だからその分、彼らと一緒にいる時間をなるべく作るようにして、何回もハングアウトしています。そうしていくうちに、英語はめちゃくちゃだけど、みんな汲み取ってくれるようになる。サーフィンをやりに、海に一緒に入ったりもします。話しても、だいたいいつもおんなじ会話ですけどね(笑)。でも、みんな連絡をくれるんです。なので、〈TENBOX〉の1周年のときも『VIRGIL NOMAL』でやりましたね。〈TENBOX〉を始めた頃は、LAのローカルカルチャーを届けたかった。ドーナツ屋って朝早くからやっていたりするってことや、持ち帰りのボックスはどこもピンクだったりといった些細なこと。話題のエースホテルよりも、アメリカはモーテルでしょ、なんて思うようなこと。日本と違って、ローラースケート文化が当たり前のように根付いているってこと。〈SUPREME〉のクルーも『ムーンライト』というローラースケート場に来るし、月曜の20時以降は大人だけの時間だったりして、みんな超うまいんですよ。ホームレスがダンボールなどに思いを綴ったべガーズサインってあるのですが、Tシャツと交換したり、買ったりして、たくさんそのサインボードを集めて、日本、LA、ポートランドでストリートアートとして展示販売もしましたね。売上はLAのホームレス支援団体に寄付しました」





PIGUさんは池袋出身である。なんとなくわかるのだが、ベースには不良文化があり、そこに、スケートボードやサーフィンがミックスされることで、独自のスタイルが生み出される。まずスケートボードで遊ぶようになり、サーフィンは中3の終わりに始め、毎週のように鵠沼海岸に行くようになった。夜着いて、ボードケースの中で寝て朝を待つ。10人くらいでいつも行っていたが、ボードを持っていたのは3人だけ。波情報はダイヤルQ2で聞いていた。ある日、鵠沼でローカルにこっぴどく怒られて、大磯に場所を移した。池袋のファッションも独特で、いわゆる渋谷などの洋服屋さんには行かずに、地元のサーフショップで買ったりする人が多い。PIGUさんが『ビームス』で働き始めた頃も、〈VOLCOM〉のTシャツに、太い〈STUSSY〉のデニムパンツ、エナメルの〈ADIDAS〉スーパースター、ツバ付きのラスタカラーの帽子などをかぶって通っていたそうだ。銀座を最初に、原宿、みなとみらい、町田、柏、横浜店と働き、渋谷の『ピルグリム サーフ+サプライ』を経て独立。『ビームス』時代に毎年行っていたLAでのいろいろな体験がまた、PIGUさんの考え方の基本となった。
「海外の人って人間らしいですよね。計算せずに人に優しいというか。僕はその頃、お店のマネージャーをしていたのですが、海外に行きたいというスタッフを連れてよくLAに行っていました。それは、アメリカの接客を現地で体感してもらいたかったというのもあったんです。アメリカ人の接し方は、人と人とのコミュニケーションをとても大事にする。一見すると、ソファーに座って携帯いじって、ダラダラやっていそうなんですが、僕らが行くと、目を合わせて、ちゃんと笑顔でハローと言う。これってすごく大切なことで、日本のお店のスタッフって勤勉ですが、お客さんが入ってきても、服を畳みながら、目を合わせずに、いらっしゃいませ、なんて言っていることも多い。ハンバーガー屋さんに行けば、杖ついたおじいちゃんもひとりでよく食べていたりするんですけど、スケーターがそのおじいちゃんのトレイを何も言わずに片付けてあげたりする。横断歩道を渡る大柄で足の悪そうな女性が、信号が変わる残り5秒でまだ足取り重く真ん中あたりを歩いていたら、見るからにそういった人には目もくれなさそうなセレブ女性が、そっと横をゆっくり歩調を合わせて歩いて、その人をひとりで歩かせなかったりしてあげる。僕がウェットスーツを車の移動中に窓に干しながら走っていたら、横を通った車の人が、『おい、かかりっぱなしだよ!』って教えてくれる。アメリカに行くと、日本では学べないことがナチュラルにたくさん体験できるんですよね。結局、『ビームス』にはアルバイトから始めて、計15年ほどいました。マネージャーにはなぜか4年半くらいでなれたのですが、第4面接まであって、あのときは緊張で震えましたし、記憶にもないくらいです(笑)」

考え方の基本は池袋とLA。スタイルは池袋の不良スケーターで、30歳の頃にLAで気付かされたことがあり、ガラッと変わった。そして、40歳を超えて、ようやく自分がわかってきた気がするという。
「若いときは、人付き合いや仕事のやり方を自分なりに、こうしたほうがいい、ああしたほうがいいと、いろいろ考え込んでいたように思います。だけど、無理にはめ込もうとするからか、結局同じ失敗を何度も繰り返したりしていました。40歳を超えて、自分のことを少しずつわかってきてからは、理想としてはそうしたくても、できないのが自分だからと、できない自分と向き合えるようになり、自分に合うやり方で行動したり考えたりするようになりました。あとは、いろんな失敗を人のせいにしなくなってきたのも40歳を超えてからですね(笑)。思い立ったら、即行動というところは昔から変わっていないかもです。なので、次は西アフリカのセネガルに行ってみようって思っています。サーフィンもできますし、アフリカンバティックのいい生地がありそうじゃないですか」
こんなに自由に、楽しそうに服を生み出す人を、他に知らない。でも、PIGUさんは最近、その自由にも飽きてしまったそうで、ランページの備わったこの空間でお店をやるのだと言っていた。店を作り、ある程度自由を拘束することで、また新しいステージに向かっていくのだろう。
「〈TENBOX〉を始めてから頑張るってことなんて一度もしたことがなくて、いつでも夢中に楽しくやってきました。頑張るくらいなら楽しんだほうがいいって。でも、楽しく自由に働くという目標と夢が叶った今は、新しい目標と夢を立て、無性に“頑張る”ことをしてみたくて。だから、店も構えようと思ったし、ジョギングも始めているんです(笑)」




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